沼田まほかる(ぬまたまほかる)
今まで黙ってましたけど、実は麻生さんのことがあるまで、私も〈未曾有〉は〈ミゾウユウ〉だと思ってたんですよ。あのときみんな、まるで鬼の首でもとったみたいにはしゃいだでしょう。だから自分もそう読んでたとは言いそびれちゃったんですよね。まあ〈踏襲〉の方は大丈夫だったけど、そのかわり私、数年前に何かで気付くまでずっと〈暴露〉を〈ボウロ〉って読んでましたからね。〈バクロ〉っていうのと意味の似た別の言葉だと思い込んでたんです。他にも、すぐには思い出せないけど、そういうの幾つもありますよ。でも、あなた全然ないですか。みなさん、日常で使う漢字なんか全部完璧に読めちゃうわけですか。そのへんがまず謎なんですよ。
だいたい何ですかね、あれ。子供たちに向かっては「人の失敗を馬鹿にしたり笑ったりしてはいけません」なんて教育するくせにねえ。一国の首相として〈フシュウ〉はいかがなものかって言うけど、それをあげつらって得々としてる大新聞の方はどうなんですか。いや、その手の記事読んで踊らされてる自分の態度も含めて、反省しているわけですけど。
それにしても新聞っていうのは、次々と総理大臣になる人たちを、どうしてあんなにいじめるんでしょうね。だって自分たちの首相でしょ。このこと、前から誰かに聞いてみたいと思ってたんですけど、私なんか世の中とか政治とかよくわかってないし、恥かきそうで怖かったんですよ。そうそう、そうなんですよ、私ら一般人には毎日の生活ってものがありますからねえ。そんな問題にばっかり首突っ込んでるわけにいきませんから。
でもほら、鳩山さんもずいぶん書き立てられたでしょう。あれだけやられたら、腰を据えて政策に取り組むなんて、よけいできなかったんじゃないですか。
確かに、お金の問題については弁解の余地ないですよ。もうひとりの人みたいに取り込んだんじゃなくて、持ち出したっていうんだけど、ダメはダメですよね、やっぱり。
ただ、与野党逆転の激動の局面なんだから、他のことでは慣れるまで多少オタオタするのは当たり前だと思うんですよ。鳩山さんも、まさかの流れで総理になったわけだし。しかし、そこのところを少し長い目で見守ろうっていうふうには、ならないんですねえ。支持率下落の記事って、毎回なんかうれしそうに書いてません?
気のせいかなあ。
八方美人で言ってることをコロコロ変えるって言われ続けましたけど、率直な人の好さが裏目に出てるような感じで、なんだか気の毒でしたね。せめてまわりの支えがもっとガッチリしてれば違ってたかもしれないけど、あの状況ではそれも望めなかったし。
そこへ沖縄の基地問題。難しいといえばあんな難しい問題もないですよ。鳩山さんどうこうの前に、いったい、あの時点であれを解決できる人っていたんですか。新聞も無策をこき下ろす記事はいろいろ載せたけど、こうすればどうかという具体案めいたものは読んだ覚えがないですよ。沖縄は気の毒だって、国じゅうがそういう気持ちになったかもしれないけど、じゃあ私たちのところで基地を引き受けましょう、少なくともその可能性を考えてみましょう、というふうにはどこもならなかったでしょう。え、そうですか? 大阪の? あれハシシタじゃなくてハシモトって読むんですか? それは知らなかった。テレビは見ないし新聞はルビないし。で、その橋下知事がそんな発言をしてたんですか。なるほど例として関空を。いや、それも知らなかった。ほらね、不勉強なもんだからこうやってボロ出して恥をかくでしょ。それで、どうなったんですか、その案は。うーん、やっぱり。土台無理ですよね、それ。橋下さんがどれだけ人気者でも、なかなか支持は得られないでしょう。
正直に言えば私だってね、自分の身近に基地が来るとなるとやっぱりイヤですよ。もしそんな事態になったら、必死で反対すると思いますね。ただ、これがまたまた謎なんですけど、鳩山さんの無策ぶりを非難した人たちは、私みたいに基地はイヤだとは思ってなかったんでしょうか。だってですよ、自分のところにもって来られちゃ困るって胸の中で思いながら、口では鳩山は無能だなんて言えないでしょう、普通。そのへんが、もひとつよくわからないんですけどね。
そうこうするうちに、いつ辞任するのかって、煽ってるとまで言ったら怒られるだろうけど、なぁーんか待ち構えているような雰囲気の記事が増えていったでしょ。で、いざほんとに辞任したら、ころっと変わって、またもや総理の座を短期間で投げ出した、という論調になりましたよね。あの道連れ辞任にある種鮮やかなものを感じた私みたいな者も結構いたと思うんですけど、そのへんはうやむや。沖縄が気の毒だ、の記事もなぜか激減。
菅さん就任後しばらくはわりと静かだったけど、そろそろ蜜月も終わりかけて、またぞろ始まってますよね、英語のスピーチ間違えたとか。そんな揚げ足とる前に、やることないんですかねえ。だって、例えばほら、あれ何でしたっけ、内閣官房機密費? 評論家の先生方が一人を除いて全員受け取ってたって?
どうしてそういうことを最後まで責任もって記事にしてくれないんでしょう。ひょっとして先生方と仲良しだからかなんて、誰でも勘ぐりますよ。何百万円ももらってたって、でもそれ賄賂じゃないんですか。え、賄賂とは違う?
それならなおのこと、実名出せばいいじゃないですか、悪いことじゃないんだったら。まったく、なにが機密なんだか。そんなところにこっそり税金使われたら腹も立ちますよ。ミゾウユウだフシュウだって書き立てたあの馬力の半分でも、そういう記事をきっちり書く方へ回してほしいですよ。
- 『腐れ縁』 最東対地
- 『九本指』 山吹静吽
- 『忘れられた犯人』 阿津川辰海
- 『ささやき』 木犀あこ
- 『普通と各停って、違うんですか』 山本巧次
- 『雨の日の探偵』 階 知彦
- 『神々の計らいか?』 吉田恭教
- 『虫』 結城充考
- 『監禁が多すぎる』 白井智之
- 『チョコレートを嫌いになる方法』 辻堂ゆめ
- 『銀河鉄道で行こう!』 豊田巧
- 『方向指示器』 小林泰三
- 『庭をまもるもの』 須賀しのぶ
- 『寅さんの足はなぜ光る』 柴田勝家
- 『脱走者の行方』 黒岩 勉
- 『日常の謎の作り方』 坂木 司
- 『味のないコーラ』 住野よる
- 『鍵のゆくえ』 瀬川コウ
- 『彼らはなぜモテるのだろうか……』 市川哲也
- 『やみのいろ』 中里友香
- 『インデックス化と見ない最終回』 十市 社
- 『文系人間が思うロボットの不思議』 沢村浩輔
- 『街道と犬ども』 石川博品
- 『沖縄のてーげーな日常』 友井 羊
- 『ジャンルという名の妖怪たち』 ゆずはらとしゆき
- 『カロリー表示は私を健康に導くのか』 秋川滝美
- 『終電を止める女』 芦沢 央
- 『女子クラスにおける日常の謎』 櫛木理宇
- 『IBSと遅刻癖』 岡崎琢磨
- 『シューズ&ジュース』 青崎有吾
- 『キャラが立つとは?』 東川篤哉
- 『「源氏物語」のサブカルな顔』 荻原規子
- 『そこにだけはないはずの』 似鳥 鶏
- 『『美少女』に関する一考察』 加賀美雅之
- 『食堂Kの謎』 葉真中顕
- 『寒い夏』 ほしおさなえ
- 『人喰い映画館』 浦賀和宏
- 『あやかしなこと』 平山夢明
- 『あなたの庭はどんな庭?』 日明 恩
- 『日常の謎がない謎』 小松エメル
- 『影の支配者』 小島達矢
- 『「五×二十」』 谷川 流
- 『グレープフルーツとお稲荷さん』 阿部智里
- 『ボールペンを買う女』 大山誠一郎
- 『日常の謎の謎』 辻真先
- 『『サイバー空間におけるデータ同定問題』あるいはネット犯罪量産時代』 一田和樹
- 『囲いの中の日常』 門前典之
- 『カレーライスを注文した男』 岸田るり子
- 『お前は誰だ?』 丸山天寿
- 『世界を見誤る私たち』 穂高 明
- 『名探偵は日常の謎に敵うのかしら?』 相沢沙呼
- 『で、あなた何ができるの?はあ、皇帝だったらたぶん…』 秋梨惟喬
- 『すっぽんぽんでいこう!』 桜木紫乃
- 『右腕の長い男』 麻見和史
- 『坂道の上の海』 七河迦南
- 『彼女は地下鉄でノリノリだった、という話。』 柴村仁
- 『その日常で大丈夫か?』 汀こるもの
- 『成功率百パーセントのダイエット』 小前亮
- 『謎の赤ん坊』 蒲原二郎
- 『一般人の愚痴と疑問』 沼田まほかる
- 『寄る怪と逃げる怪』 高田侑
- 『福の神』 木下半太
- 『マッドサイエンティストへの恋文』 森深紅
- 『私の赤い文字』 大山尚利
- 『となりあわせの君とリセット』 詠坂雄二
- 『美人はなぜ美人なのか』 小川一水
- 『なぜモノがあるのか。』 鈴木光司
- 『この目で見たんだ』 北村薫
- 『運命の糸が赤いのは?』 山下貴光
- 『念力おばさん』 湊かなえ
- 『方向オンチはなぜ迷う?』 山本弘
- 『ゆがむ顔のカルマ』 真藤順丈
- 『子供だけが知っている』 宇佐美まこと
- 『人はなぜ、酒を飲むのか』 薬丸岳







メフィスト 2020 vol.2
メフィスト 2020 vol.1
メフィスト 2019 vol.3
メフィスト 2019 vol.2
メフィスト 2019 vol.1
メフィスト 2018 vol.3
メフィスト 2018 vol.2
メフィスト 2018 vol.1
メフィスト 2017 vol.3
メフィスト 2017 vol.2
メフィスト 2017 vol.1
メフィスト 2016 vol.3
メフィスト 2016 vol.2
メフィスト 2016 vol.1
メフィスト 2015 vol.3
メフィスト 2015 vol.2
メフィスト 2015 vol.1
メフィスト 2014 vol.3
メフィスト 2014 vol.2
メフィスト 2014 vol.1
メフィスト 2013 vol.3
メフィスト 2013 vol.2
メフィスト 2013 vol.1
メフィスト 2012 vol.3
メフィスト 2012 vol.2
メフィスト 2012 vol.1
メフィスト 2011 vol.3
メフィスト 2011 vol.2
メフィスト 2011 vol.1
メフィスト 2010 vol.3
メフィスト 2010 vol.2
メフィスト 2010 vol.1
メフィスト 2009 vol.3
メフィスト 2009 vol.2
メフィスト 2009 vol.1




