講談社BOOK倶楽部

『ホームズ四世』新堂冬樹
webメフィスト
講談社ノベルス

あとがきのあとがき

『ホームズ四世』

『ホームズ四世』

新堂冬樹(しんどう ふゆき)

profile

1998年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。その後『闇の貴族』『ろくでなし』『無間地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』などヒット作を連打。ドラマ化、映画化された作品も多数。裏社会をハードに描く「黒新堂」と静謐な恋愛小説を書く「白新堂」の2つの顔を持つ。芸能プロダクション(新堂プロ)も経営し、その活動は多岐にわたる。

 幼い頃に夢中になった小説は、『シートン動物記』『ファーブル昆虫記』『怪人二十面相』そして、『シャーロック・ホームズ』シリーズだ。

 とくにエキセントリックな人間像が魅力的なシャーロック・ホームズという主人公には、幼心にもかなりの衝撃を受けた。

 歴史的名作なので、世界中で数々のドラマや映画として映像化されている。

 いろいろな作品を観たが、個人的にベストの「シャーロック・ホームズ」は、1985年から1995年にNHK総合で放映されたジェレミー・ブレット主演の『シャーロック・ホームズの冒険』だ。

 とにかく、主役のジェレミー・ブレットの役作りが際立っていた。

 奇人、変人、偏屈、悪癖、我儘……エキセントリックでありながら、鋭い洞察力と神がかり的な推理力を持つシャーロック・ホームズを見事に演じた。

 私はDVDで観たのだが、いつか、自分も「新堂版ホームズ」を書きたいと思っていた。

 そのチャンスは、デビュー15年目に訪れた。

 私の生みの親である講談社の「メフィスト」での新連載打ち合わせの際に、当時の担当編集者に、「ホームズ物を書きたい」と直訴した(笑)。

 「新堂冬樹がシャーロック・ホームズ……面白いですね!」

 ここまでは、スムーズに話が進んだ。

 問題なのは、「どんなホームズ物」にするか? だった。

 ご存知の通り、シャーロック・ホームズに纏わる作品はかなりの数に上り、様々なキャラクターが生まれた。

 まず、私が考えたのは、「ルパン三世」のように主人公はホームズ自身ではなく、子孫にしようということ……そして、舞台をロンドンのベイカー街ではなく新宿の歌舞伎町にしようということだった。

 なぜ歌舞伎町を舞台にしたのかといえば、やはり日本でも有数の犯罪の街というイメージがあるからだ。

 そして、ホームズの子孫=探偵という安易なキャラクターにだけはしたくなかった。

 では、どんな主人公にするか?

 いまどきの若者、偉大なる先祖にたいしてのコンプレックスと反発、歌舞伎町特有の匂い、一芸に秀でたキャラクター……私が生み出した「ホームズ四世」は、歌舞伎町のナンバー1ホストだった。

 だが、奇をてらうばかりではなく、シャーロック・ホームズを扱うことにたいしての敬意を表する意味で、敵役はジェームズ・モリアーティの孫の悪の天才、主人公、響のパートナーはジョン・H・ワトスンの曾孫の美少女探偵と、「王道を継承」した(笑)。

 『ホームズ四世』は、『シャーロック・ホームズ』シリーズをリスペクトしながらも、恐れ多くも「新堂ワールド」に染めようと挑んだ新境地である。

特集ページへ

Backnumber

あとがきのあとがき 日常の謎
メフィスト賞とは?