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『パリ症候群 愛と殺人のレシピ』岸田るり子
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『パリ症候群 愛と殺人のレシピ』

『パリ症候群 愛と殺人のレシピ』

岸田るり子(きしだるりこ)

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京都府生まれ。パリ第七大学理学部卒。2004年、『密室の鎮魂歌』で第14回鮎川哲也賞を受賞。『パリ症候群』収録の「青い絹の人形」は、2013年第66回日本推理作家協会賞短編部門にノミネートされた。

元来うっかりミスの多い私は、数年前、パリで大変な失敗をしてしまい、冷や汗たらたら状態で街中を右往左往しました。その痛い経験をミステリで生かしたい(!)という思いから、本作に収録されている「青い絹の人形」の核となるアイデアを思いつきました。

その後「すべては二人のために」「砂の住人」とそれぞれ別の切り口のフランス舞台のミステリ短編をメフィストに掲載しました。

この三作を通して、美しいばかりがパリではないということを暗に訴えている自分に気づき、短編集をまとめるにあたって表題作として「パリ症候群」をテーマにした話を書くことにしました。

パリ症候群というのは、流行やグルメの発信地として華やかなパリをイメージしてやって来た日本人が、あまり美しくないパリに直面してかかる鬱病のような症状です。

この症状は、メディアなどで紹介されるファッショナブルな街と違い、パリの治安が悪いこと、地下鉄などの公共の場が汚いこと、テロの危機が身近なこと、役所の仕事や接客のサービスがノロくて不親切なこと、などによるカルチャーショックが原因とされています。

また、多種多様な人種の集まるパリでは、現地語での徹底した説明能力が要求されるため、日本人のように言外の空気を読み、以心伝心で心を通わすということがありません。

私自身フランスの中学校へ編入するまでは、協調性を美徳とした日本の教育にどっぷり浸かっていましたから「和を以って貴しとなす」の概念を根底からひっくり返されてしまいました。

むこうの文化になんとか馴染み、大学を卒業して日本に帰国してみると、今度はフランスでのコミュニケーション方法の多くが日本では通用しない壁にぶつかり、それまでの努力が再びひっくり返されてしまいました。

もしかしたら、この価値観ひっくり返しの連続がミステリを書く上で役立っているのかもしれない(!?)、とプラスに考えられるようになったのは『パリ症候群』を刊行することができ、私の苦い体験がすばらしい形で報われることになったからです。

本作品を読んでいただき、読者にパリ症候群というパリ特有の美醜入り混じったショック状態をほんの少しでも味わっていただければ幸いです。

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