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『倒叙の四季 破られたトリック』深水黎一郎
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あとがきのあとがき

『倒叙の四季 破られたトリック』

『倒叙の四季 破られたトリック』

深水黎一郎(ふかみ れいいちろう)

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1963年生まれ。2007年に『ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ!』で第36回メフィスト賞を受賞。『ミステリー・アリーナ』が「2016本格ミステリ・ベスト10」で1位に輝く。

 このたび久々に講談社ノベルスで書かせていただいた『倒叙の四季 破られたトリック』は、タイトルが示す通り、四篇からなる倒叙形式の連作短篇集です(ここを見ている皆様に、倒叙形式とは何ぞやを説明する必要はありませんよね?)。探偵役はお馴染警視庁捜査一課の、ロマンスグレーの海埜警部補。完全犯罪を目論む犯人たちは、一体どこで致命的なミスを犯したのかを、海埜と一緒に考えてみて下さい。

 これが著作14冊目ですが、実は倒叙形式は初めてです。去年『ミステリー・アリーナ』(原書房)でハチャメチャやらせて貰ったので、次は端正な本格ミステリーを書きたい欲求が高まり、この形式にチャレンジすることにしました。本格でありながら、同時に犯人目線でのサスペンスも描けるので、書いていて楽しかったです。

 四つの話は犯行手段も全てバラバラになるように心がけ、各篇に日本の某古典文学の一節をもじったタイトルを付けてみました。それぞれ「春は縊殺 やうやう白くなりゆく顔いろ」「夏は溺殺 月の頃はさらなり」、「秋は刺殺 夕日のさして血の端いと近うなりたるに」「冬は氷密室で中毒殺 雪の降りたるは言ふべきにもあらず」―元ネタは言わずともおわかりですね。

 ただしこの形式には固有の難しさがあることも、今回初めて実感しました。

 まず犯人たちの犯罪捜査等に対する知識を、どのあたりに設定するのか。基本的な凡ミスで捕まってしまうのでは全然面白くありません。そこで犯人全員が懲戒免職処分になった元警視庁の敏腕刑事が作成した裏ファイルを参考にして、警察捜査のノウハウや法医学について、かなり専門的な知識を得ているという設定にしました。

 次の難しさは、どこで犯人に白旗を上げさせるかです。とうてい公判を維持することができないような、証拠とも言えないような状況証拠を探偵役に示されただけで、べらべら自白してしまう犯人というのは、ミステリーの様式美であると同時に、やはりできれば打破すべき悪しき慣習だと思っているので、犯人たちには往生際悪くぎりぎりまで頑張らせることにしました。

 最後に気を配ったのは、あまり長くならないようにすることです。その甲斐あってお求め易い価格に収めることができていると思います。どうか書店で見かけたらお手に取って頂ければ幸いです。

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