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『五覚堂の殺人』周木律
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あとがきのあとがき

五覚堂の殺人

『五覚堂の殺人』

周木律 (しゅうきりつ)

profile

某国立大学建築学科卒業。『眼球堂の殺人 ~The Book~』で第47回メフィスト賞を受賞。本作は『双孔堂の殺人』に続く3作目となる。

 先入観―。

 これは、人間という生物が生きていく上では、一般的には有用に働く意識です。直面した事象に対して何らかの判断を為そうとするとき、先入観があれば、いちいち一から検討する労力をかけることなく、そのときには一応確からしい答えを出すことができるからです。コストを最小にしつつ、その効用の平均値は最大に高められる。これは、先入観の持つプラスの面です。

 一方では、あらかじめ持っている知識―伝聞によるものや経験によるもの、さらには思い込みによるもの―は、時として人を拙速な判断に陥れ、客観的に見れば到底適切とはいえない短絡的な結論を是としてしまうことも、往々にしてあります。「今まで平気だったんだから、これからも大丈夫なはずさ」そう考えて交差点に飛び出し、車に轢かれて痛い目を見るというのも、ある意味では人間が先入観にとらわれ
る生き物であることから必然的に導かれる結果であると言えるでしょう。

 言うまでもなく、思い込みや偏見といったものは、ミステリにおいても十二分に活用されています。「まさか、そんなのは不可能だ、できっこない」読者のそんな先入観を利用し、その裏をかいて驚かせた事例は、枚挙に暇がありません。

 ですから、メフィストや講談社ノベルスでミステリに親しんできた皆さま方は、先入観に対する警戒心が普通の読み手よりも強い、つまり先入観にとらわれづらい読者だといえます。

 ですからこの「あとがきのあとがき」が、ここまでいつもの字体とは異なっていたということにも敏く気づいていたと思いますし、一行の字数がここまでずっと二文字ほど減らされていたのだということにも、当然、気づいていただろうと思います。(気づきましたよね?)。

 さて、二月に刊行した拙作『五覚堂の殺人 〜Burning Ship〜』ですが、これもミステリとして裏をかくと同時に、数学は小難しく、無味乾燥で、訳がわからないものだ、という多くの人が持つ先入観をなんとかして覆したいと、そんな思いを持って書いたものです。

 是非とも、さまざまな先入観にとらわれながら、お読みいただければ幸いです。



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