講談社BOOK倶楽部

『黒薔薇 刑事課強行犯係 神木恭子』二上 剛
webメフィスト
講談社ノベルス

あとがきのあとがき

『かわいいだけじゃない私たちの、かわいいだけの平凡。』

『黒薔薇 刑事課強行犯係 神木恭子』

二上 剛(ふたかみ ごう)

profile

1949年生まれ。大阪府警某警察署の暴力犯担当刑事を務め、退職後、『黒薔薇 刑事課強行犯係 神木恭子』(受賞作『砂地に降る雨』を改題)で、第2回本格ミステリーベテラン新人発掘プロジェクトを受賞しデビュー。

 定年後に小説を書き始めましたので試行錯誤することがまだまだ多く、この作品も不安の中でのスタートでした。主人公の神木恭子は実在の女性警察官をモデルにしていますが、もちろん針小棒大に書いています。

 警察署に勤めていたとき、わたしらのような刑事係長は、キャリア警察官と口をきくことができる立場ではありませんでしたし、実際に会話したこともありませんが、女性刑事とキャリア警察官を組み合わせれば面白い物語になるのではないか、と思ったことが書くきっかけでした。

 わたしが定年になる二、三年前から女性刑事が増員され始めました。刑事課の係長会議で、はじめに誰を引き入れようかが議題になり、交番勤務をしている一人の女性警察官に白羽の矢が立ちました。やくざに職務質問をするのが得意で、交番に連れてきて、そのまま捕まえると耳にしたからです。

 課長がわたしに、任せる、と言うのです。しかし、彼女と面識のなかったわたしでは接触するタイミングもなく、最終的に彼女に刑事課まで来てもらって話をすることにしました。まずは雑談から、と思っていましたが、「刑事になりたくないか?」ずばり訊きました。

「刑事になるより剣道がしたいのです。そもそも剣道がしたくて警察官になったのですから」臆面もなく彼女は答えました。

 甘い油揚げの入ったきつねうどんが好きだとか、腕相撲なら男にも負けない、とかとも言っていました。よばれた趣旨を知りながら、ぬけぬけとそんなことを言う神経の太さにも感心しました。

 刑事になることを納得してくれ、刑事課に配置換えになってからの彼女ですが、一番下の新米刑事で女は自分だけという立場でありながら、態度に変化はありませんでした。

 彼女が、神木恭子なのです。

 わたしの退職日が近づいたころ、「被ってください」と言って鳥打帽をお祝いにくれました。赤面するわたしに、「本当に悪い奴を捕まえます」と独り言のように言ったのを、今も鮮明に覚えています。

 わたしはこの度の受賞が決まって、せっかく賞を頂いたので、これからも力一杯書いていきたい旨の手紙を彼女に出しました。彼女からの返事には、係長の意志を継いで本当の悪人をきっと捕まえます、とありました。

特集ページへ

Backnumber

My Precious講談社ノベルス 立ち読みメフィスト あとがきのあとがき 日常の謎
メフィスト賞とは?