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『残酷号事件the cruel tale of ZANKOKU-GO』上遠野浩平|あとがきのあとがき|webメフィスト
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あとがきのあとがき

『残酷号事件
the cruel tale of ZANKOKU-GO

上遠野浩平 (かどのこうへい)

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1968年生まれ。『ブギーポップは笑わない』(電撃文庫)でデビュー。その驥足が常に注目されている作家である。

 夢。あなたには夢があるだろうか? 僕にはない。より正確に言うと「これが夢だ」とはっきり言えることにまだ出会えていないような気がする……いい歳こいて何言ってんだというところであるが「おまえは作家になりたくて、それでなったんだろ、夢を叶えたんじゃないのか」と当然の反論がありそうだが、作家志望者は皆「こういう作家になりたい」と考えているのだろうが、僕はそういうのが希薄で、尊敬する作家は多いが同じようには「なれるわけねえ」と最初から思っているし、作家になってからも「なんか知らないが、すげえイラつく」と思うことの方が多くて、そういうことを夢みていたかというと勿論そんなことはないのであり、では何を目指していたのかというと――これがよくわからないのである。そんな曖昧な僕が『残酷号事件』に関しては「こういうのが書きたくて作家をやっているのだ」という作品だと胸を張って言えるのであった。まあ僕は恥知らずなので「今まで書いた作品は全部傑作」と思っているのだが、あくまでも「作品」の方が優先で「自分」が書きたいかどうかは正直、二の次である。趣味で仕事は出来ないからであるが、こと『残酷号』に関しては何しろプロになる遥か前から書いてた小説なので、その辺の区別が全然なく、訳もわからずに創っていた痕跡がいたるところに残っている。あの頃は一体何を夢みてこんな描写を、と執筆中は過去の自分を発掘してるみたいな感じだった。そしたらなんたることか、昔の自分は作家になりたかったのか、さっぱりわからなくなってしまったのである。こういう作品を書きたかったんだな、ということは歴然としているのに、こういうものを書ける人になりたい、とはあんまり考えてなかったみたいなのである。なんというセルフイメージの欠落であろうか。自己啓発本の作者から「だからあなたは駄目なのです」と言われそうな話である。しかも書いたからって辞めることも出来ずこの先もやってく訳で、講談社でもシリーズとは別に『私と悪魔の一〇〇の問答』(仮)を書かなきゃならないし。夢つっても「これは夢じゃ夢でござる」の方のような気がしてきましたが、これが生きるってことなんでしょうねえ。以上。
(でもなんだろう、この変な満足感は?)
BGM “THE FUTURE” by PRINCE

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