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『さいとう市立さいとう高校野球部 甲子園でエースしちゃいました』あさのあつこ
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あとがきのあとがき

『さいとう市立さいとう高校野球部 甲子園でエースしちゃいました』

あさのあつこ

profile

岡山県生まれ。『バッテリー』『バッテリー2』で野間児童文芸賞ほか各賞を受賞。著書に「No.6」シリーズ、「白兔」シリーズ(講談社)など。

 夏です。当たり前だけど暑いです。この原稿を書いている七月中旬、地元でも夏の甲子園の地方大会が始まり、弥が上にも夏の雰囲気を盛り上げています(我が母校は、一回戦で敗退しちゃいました。残念)。それにしても、高校野球に人はどうしてこうも魅了されるのだろう。

 そんな思いがずっと、胸の内にありました。予選の段階から、メディアで大きく扱われ、全国大会は全試合をNHKが放映する。世界選手権でもオリンピックでもない、国内のしかも高校生のやるスポーツの試合に、ここまで人々が熱くなるのはどうしてだろう。高校野球の、その魅力を探りたくてわたしは、野球をテーマに作品を書いてきた……つもりでした。でも、それは思い違いだったようです。わたしは、甲子園の野球や高校の野球部を書きたかったのでは、決してなくて、どこにもいない唯一人の少年、高校球児と呼ばれる何百人(何千人?)の中にいるたった一人の彼を書きたかったのです。彼はさまざまです。剛腕なエースであったり、控えの選手であったり、硬球を初めて握った少年であったりと。

 ということで、山田勇作くん。今回のわたしの彼です。むふふ(勇作くん、今、わたしの妖艶な笑みにくらっときています。え? 違うの? 気分が悪くなった? どうして?)。彼は熱血高校球児ではありません。ちょいととぼけた、野球より温泉が好きな(時と場合によりますが、概ね)少年です。そんな勇作くんが、甲子園のマウンドでエースとして投げる。それが、『さいとう市立さいとう高校野球部 甲子園でエースしちゃいました』(な、長い)です。

 しかも、舞台となる甲子園は夏! ではなく春です。そこらへんが、勇作くんっぽくないです? 勇作くんっぽいってのを上手く説明できないのが歯痒くも苦しくもあるのですが(ええっ、作者がそんなこと言ってていいわけ? ちょっと酷くね? by勇作)。

 このように(どのようにだよ? by勇作)『さいとう市立さいとう高校(以下略)』は、ちっとも暑くも熱くもない、でも、紛れもなく本物の甲子園の高校野球の物語です(きゃっ、紛れもなく本物だって、自分でいっちゃった。恥ずかしい)。

 熱血とはほど遠いけれど、温泉の魅力はたっぷり味わえます。一冊で野球と温泉を堪能できるなんて、お得感満載でしょう。野球ファンも温泉好きも満足できると自信あります。え? 自信の向きがずれてる?

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