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『虹の歯ブラシ 上木らいち発散』早坂 吝
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あとがきのあとがき

『虹の歯ブラシ 上木らいち発散』

『虹の歯ブラシ 上木らいち発散』

早坂 吝(はやさかやぶさか)

profile

1988年、大阪府生まれ。京都大学文学部卒業。2014年に、『○○○○○○○○殺人事件』で第50回メフィスト賞を受賞しデビュー。

上木らいちは二〇〇六年五月に生まれた。誕生の経緯については敢えて語らない。若気の至りによって新たな生命が息吹くのはよくあることだ。

らいちは望まれない子供だった。らいちの二次創作を書いたり、らいちのコスプレプリクラを撮ったりする変わり者(多分本人にとっては忘れたい過去だろう)もいたが、基本的には愛されなかった。イラストが得意な友人たちが私の作品のキャラクターを描いてくれることがたまにあったが、その中にらいちの絵は一枚もなかった。

不人気の理由はやはりエロさに必然性がなかったからだろう。エロいキャラを出したいなら、それに見合った設定やトリックが必要なのだ。そのことに気付いた私はエロネタをいくつも考え、メフィスト賞に応募した。『○○○○○○○○殺人事件』がエロい編集者の目に止まり、私とらいちのデビュー作となった。

『虹の歯ブラシ』について言えば、二〇〇七年頃から温めていた青の章を何とか世に出したいと思った時に、その青とらいちの赤毛が化学反応を起こして、虹の各色をテーマにした連作短編集という着想を得た。赤の章をトリにして、らいち自身に関わる何らかの仕掛けをしよう、何らかの仕掛けはそのうち思い付くだろう。そう高を括り、まずは他の色を仕上げていった。しかし肝心の赤を一向に思い付かない。思い付いたのは橙まで書いた時。思い付いて本当に良かった。……と、このように咄嗟に思い付いた赤だが、本格ミステリとして(多分)前例がなく、らいちの本質を象徴的に表している美しい構造だと自負している。ぜひお試しください。

らいちに対する私の思い入れはよく伝わったかと思うが、何分アクの強いキャラクターなので苦手な方もいるだろう。私には他にも自慢の子供がいるので、違う色も見せていきたいと思っている。

余談だが、先述の絵描きの一人が最近らいちのイラストを何枚か送ってくれた。デビューした途端に手の平返ししやがって……などとは思わず、ありがたく頂戴した。いや、本当にありがとうございます。

作品の性質上多くを語れないので、身内いじりで字数を稼いで申し訳ございません。そうそう、身内と言えば、写真の女の子は義理の妹です。七色の歌声で作業能率を大幅に向上させてくれます。以後お見知りおきを。

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