講談社BOOK倶楽部

『#柚莉愛とかくれんぼ』真下みこと
webメフィスト
講談社ノベルス

あとがきのあとがき

#柚莉愛とかくれんぼ

『#柚莉愛とかくれんぼ』

真下みこと(ました みこと)

profile

1997年埼玉県生まれ。2019年『#柚莉愛とかくれんぼ』で第61回メフィスト賞を受賞し、2020年デビュー。

 この小説を書いている間、私はアイドルでした。
 というのは言い過ぎかもしれませんが、女の子なら、いや、女の子じゃなくても、誰もが一度は夢に見る「アイドルになってみたい」という想いが、ささやかながらかなった気がします。

 この物語は、大学に通う電車に乗っているときにできました。
あるアイドルがネットで炎上したというニュースをスマホで見ている最中に、人にぶつかられた気がして顔を上げると、周りにいる乗客が、みんなスマホを眺めていることに気が付きました。この中にアンチコメントをした人がいるのかもしれない。この中に炎上したアイドルがいるのかもしれない。そう思ったとき、退屈な通学電車が、急にスリリングになって、胸がどきどきしたのを覚えています。アイドルもファンもアンチも同じ人間だ、ということを、初めて実感した瞬間でもありました。私はアイドルだったかもしれないし、ファンだったかもしれないし、もしかしたらアンチだったのかもしれません。イヤフォンから流れる音楽や電車の走る音が、一瞬だけ、すべて消えたみたいでした。

 思いついた大まかな流れを、電車を降りてすぐに自分のスマホに打ち込みました。私もまた、スマホに夢中な人の一人でした。
そうやってできた小説が本になるなんて、なんだか不思議な気持ちです。

 本編の内容を簡単に説明すると、インディーズで活動するアイドルがちょっとしたことから炎上してしまい、どんどんとちていく、というお話です。

 私自身アイドルが好きということもあり、設定を考えるのが楽しくて、パワーポイントで三十八枚にわたる設定資料集を作ってしまいました。例えば、作中に出てくるアイドル(となりの☆SiSTERsシスターズ如月由香きさらぎゆか)のCDリスト。本編に使う気はなかったのですが、編集部の皆さんに面白がってもらい、思いがけず本に収録していただけることになりました。びっくりです。また、作詞作曲が趣味なので、となりの☆SiSTERsのデビュー曲「きみのとなり」を作って歌ってみたりもしました。こちらも、作品の世界観を表現したプロモーションサイトでPVを公開していただくことになりました。彼女たちが実在しているような、不思議な気持ちになっています。

 この、私のアイドルへの偏愛が詰まった小説が、一体どんな方に読んでいただけるのか。私自身ちょっと不安もあり、そしてとても楽しみです。お手に取っていただけたら嬉しいです。

「#柚莉愛とかくれんぼ」でタグ付けされた投稿をどこかで目にすることができたら、私は自作のデビュー曲を歌いながら小躍りすることでしょう。もしもそんな人を街中で見かけたら、できるだけそっとしておいてあげてください。

 それでは、冒頭で触れた「アイドルになってみたい」という私のささやかな夢の結末は、本編を読んでのお楽しみ、ということで。

『#柚莉愛とかくれんぼ』を、どうぞよろしくお願いします。

特集ページへ

Backnumber

あとがきのあとがき 日常の謎
メフィスト賞とは?