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『異セカイ系』名倉 編
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あとがきのあとがき

異セカイ系

『異セカイ系』

名倉 編(なぐら あむ)

profile

京都府出身。「ゲンロン 大森望 SF創作講座」をへて『異セカイ系』で第58回メフィスト賞を受賞しデビュー。本作は、東浩紀、大森望、前島賢などの絶賛を受け、新時代のセカイ系として話題となる。

 すきな登場人物やヒロインが死にそうで「頼む作者。殺さないで」って思うこと。あります? ぼくはあります。 『異セカイ系』は簡単にいうとそんな話です。物語にはヤマがありタニがあり。正義や希望と同時に悪や不幸も必要になる。もしかしたらぼくたちは登場人物の幸福を祈りつつ裏で不幸を望んでる――かもしれない。もちろんそれは相手が虚構だから許されることで。じゃ。その壁とっぱらったら? って問いが出発点。そっからラッキースケベだとかハーレムエンドだとか巻き込みつつメッタメタのメタフィクションにつきすすむ。だいたいそんな話なんですけど。どうでしょ。おもしろそうだと思いません?

 この本を出すまえ。編集者のかたとの相談や『メフィスト』の座談会で。なんとなく印象にのこった言葉がありました。

「この物語を世に問うてみたい」

 気になりつつ。そのときはそういう言い回しがあるんだな。って思っただけで。

 そのころ。ぼくは期待と不安のなかにいました。ゼロ年代もおわって久しい昨今。異世界はともかくセカイ系の名を冠した小説ってどれくらい読まれるんだろ? って。

 それから『異セカイ系』が発売して感想をツイッターとかで見るようになって。

 そこには反応がありました。問いに対する返答が。

 ゼロ年代やセカイ系を愛してる人。こんないるんだ。そこに気付いてくれるとは。そうそう。あの作家から影響受けてます。笑ってくれたんだ。怒って。泣いて。はーそんな解釈や読みが。

 いままで見えてなかった「世」にすむ人々が見えた気がして。

 世に問う。ってそういうことなのかって。

 この作品だけじゃない。世にすむあなたたちを知りたいから。世に問う。

 それはなんとなく。ぼくが大学で学んでた実験物理のイメージと合いました。目に見えない宇宙線や素粒子の姿を捉えるには検出器――問いが必要で。観測――問いは微弱でも観測対象に影響をおよぼす。

 で。そっか。『異セカイ系』も返答だったんだなって。京極夏彦や舞城王太郎や西尾維新や……いろんなだいすきな作品に問われて。影響されて。ぼくはこれを書いた。

 もしあなたがまだ読んでなかったら。ぜひ読んでください。『異セカイ系』。あなたはどんなふうに思うでしょう? それでもしよかったら。返答を聞かせてください。

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