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『清らかな、世界の果てで』北里紗月
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清らかな、世界の果てで

『清らかな、世界の果てで』

北里紗月(きたざときつき)

profile

1977年、埼玉県に生まれ、千葉県で育つ。東邦大学大学院理学研究科生物学専攻修了。理学修士。日本卵子学会認定胚培養士。体外受精コーディネーター。『さようなら、お母さん』が島田荘司選 第9回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞優秀作となり、2017年にデビュー。医療ミステリーの新星として注目される。本書が第2作となる。

『清らかな、世界の果てで』の著者、北里紗月です。『さようなら、お母さん』で昨年の4月にデビューしてから、早いもので1年と数ヵ月が経ちました。

 前作、今作とも探偵役を務めるのは、理学部生物学科大学院生にして毒物研究家の利根川由紀です。今作も彼女がマニアックな生物学知識を活用し、難事件の解決に挑むバイオロジカルミステリーとなっております。

 さて、私自身生物学科の出身なのですが、皆様は生物学科と聞いて何を思い浮かべるでしょうか。大海原でイルカの生態を探る、ムツゴロウさんのように動物の行動を研究する、このようなイメージでしょうか。生物=動物と解釈されがちですが、ウイルスからクジラまで、地球上に存在する、もしくは存在した全ての生き物、生命現象の全てが生物学の研究対象になります。私は古生物学も大好きなので、カンブリア紀の覇者、アノマロカリスや約3億6千万年前に初上陸を果たしたイクチオステガもその対象になります。

 では、そのような生き物の研究が皆様の何に役立つかと問われれば、たいがい何の役にも立ちません。ですから、生物学科を卒業しても薬学部や医学部の学生さんのように、立派な職業に就けるわけでもありません。おのずと、生物学科に進学したい! と言えば親の猛反対にあいます。とりあえず、理科の先生になります、病院関係の資格も取りますから、などと口から出まかせを言って親を騙して進学する学生が大半です。

 なぜそうまでして? とお思いでしょう。答えは単純で「好きだから」、この一言に尽きます。とても大人が述べる理由ではありません。

 これをどこまでも突き進んだ方が生物学者で、浮世離れした方が多いです。高校時代の恩師は、大好きな蝶を追い求め東南アジアの密林に向かったのですが、行動が怪しいと軍に拘束されてしまいました。私が生物毒に魅了されるきっかけとなった植物毒の研究者は、毒草が好きすぎて、つい毒味をしてしまうのです。しかもこの方、致死量の計算を間違って何度も悶絶しております。

 私の書く物語には、利根川由紀を筆頭に変わり者の研究者が登場するのですが、友人や著名な生物学者などをモデルに、あまり脚色をせずに書いている場合が多いです。彼らは私の想像力など突き抜けた素晴らしく魅力的な人物だからです。

 北里さんが生物学を愛しているのはよく分かりましたが、ではなぜミステリー小説を? とよく聞かれます。ミステリーの日本語訳は「謎」ですが、対語は「サイエンス」、つまり科学ではないのかと思っています。科学は謎に包まれた現象を誰にでも理解できるように解き明かす学問です。

 私は子供の頃からなぜ? と思うと、いてもたってもいられない性分で、ある時は石の断面が気になり約6ヵ月間、庭の石をハンマーでたたき割っていました。またある時は、どうしてもカビを育てたくなり、プラスチックケースにパンを詰めて押し入れに放置したのですが、数週間後、小さな腐海が出来上がっているのを見て怖くなり、天井裏に隠しました。理解できない謎を自分の手と頭で解明できた時の興奮や感動は、ミステリー小説に通じるものがあると思います。

 今後も読んで下さった方がわくわくし、そして感動を味わえる、そんな小説を書き続けていきたいと思っていますので、どうぞ次回作を楽しみにお待ち下さい。

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