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『コンビニなしでは生きられない』秋保水菓
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あとがきのあとがき

コンビニなしでは生きられない

『コンビニなしでは生きられない』

秋保水菓(あきうすいか)

profile

1994年、神奈川県横浜市生まれ。『コンビニなしでは生きられない』で第56回メフィスト賞を受賞し、2018年4月にデビュー。

『コンビニなしでは生きられない』は、通学中に思いついた物語です。

 一昨年の十二月の上旬――朝、電車に揺られながら、私は「メフィスト」の巻末座談会で自身の投稿作品が取り上げられたことを知り、かつてない高揚感に包まれていました。

 ただし、厳しい指摘も多くいただきました。それを踏まえて、さて次作はどう書こうと席に座りながらぼんやりと考えていたところ、横浜駅を通り過ぎた辺りでとある景観が目に留まったのです。そこで、メインキャラクターの白秋と黒葉の輪郭がなんとなく、それでもごく自然と頭に浮かび上がりました。

 もちろん、それ以前に「こういう人たちの話を書きたい」という微かな構想があって、それを土台にしたうえでの思いつきではありましたが、その日の夜から本格的に書き始めた本作『コンビニなしでは生きられない』は、三週間後にメフィスト賞投稿作品として無事投函することができました。

 三週間で書き上げたそれは、編集部の皆様、そして担当のPさんからいただいたアドバイスをもとに(新作を書き上げる傍ら)半年かけて改稿を繰り返しました。たとえば、改稿前の第一章はスティックシュガーが店内から消えるというささやかな謎から話が始まっていましたが、それは改稿に際してごっそりと削り取って、別の話――コンビニ強盗の謎から始まる話――に丸々差し替えたりしています。

 このコンビニ強盗の謎から始まる第一章には、実体験をベースにしている部分が多々あります。実際にコンビニ強盗犯とレジカウンターを挟んで対峙した私が、まさかその数年後にコンビニ強盗の話を書くとは当時夢にも思っていませんでした。そしてそれが巡り巡って、第56回メフィスト賞を受賞することへと繫がるのですから、あのとき包丁を突きつけられた経験は決して悪いことばかりではなかったのだと――色々な意味であのコンビニ強盗のときの経験からすべてが始まっていたのだと――今では考えております。(そのときの強盗犯は十分後くらいに捕まりました。幸いなことに誰にも怪我はありませんでした)

 経験といえば、私には高校一年生の頃からずっと、コンビニで働いてきた経験があります。むしろその経験以外に自分を表現できるものが何一つ見当たらないくらい、気づくと私の学生生活や私生活は華々しさからだいぶ遠いところに落ち着いていたような気がします。

 その空白を埋めるように、私はとあるアニメをきっかけにして学校を舞台にした青春ミステリーや、日常の謎をよく好んで読むようになりました。その感動と羨望の念が尽きることはとうとうありませんでした。

『コンビニなしでは生きられない』は、そんな学園モノのミステリーに触発されている部分が多くありますが、学校を舞台にしているわけではありません。あくまでコンビニで起こる事件を主人公たちがコンビニ内外で解決していく形式を一貫してとっております。実際、作中では主人公が学校の建物の中に入ることはついにありませんでした。本作はそのタイトル通り、コンビニを生活の一部に――全部にしている人たちの青春ミステリーなのです。

 それでも紛れもなく、やはり『コンビニなしでは生きられない』は学園モノのミステリーに影響を受けていると言えます。

 なぜコンビニを舞台にしながら、学園モノのミステリーの影響下にあるのか。

 なぜ主人公が学校の建物の中に入ることはないとあらかじめ言明したのか。

 その微意は、本作を手に取って、どうぞお確かめくださいませ。

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