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『ギキョウダイ』嶋戸悠祐
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あとがきのあとがき

ギキョウダイ

『ギキョウダイ』

嶋戸悠祐(しまと ゆうすけ)

profile

1977年、北海道旭川市生まれ。北海学園大学卒業。『キョウダイ』(講談社ノベルス 2011年刊)が、島田荘司選 第3回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞優秀作に選出され、デビュー。他の著書に『セカンドタウン』(講談社ノベルス 2013年刊)がある。

 いつかサッカーを題材にした小説を書いてみたいと思っていた。
 普段、自分が書くものは、暗く澱んだミステリーとホラーの世界。青春の輝きを放つサッカーのイメージとは相容れぬもの、と諦め、書くのはまだまだ先のことと考えていた。
 それでも、味付け程度なら良いかと、このたびの『ギキョウダイ』のプロットに、サッカーのエッセンスを入れてみた。
 すると、それを読んだ担当編集者から「サッカー部分が面白い」と意外な評価を頂けた。
 気を良くした私は、部分的だったそれを広げ、サッカーの世界で作品全体を覆った。
 試合の描写や、用語など、ある程度、専門的に書いた。
 読者を置き去りにするのでは、と心配だったが、読んだ方からちらほらと「サッカーに興味はないが面白く読めた」とか「専門用語が結構あったが、雰囲気が伝わってきた」などと、嬉しい意見もあり、ほっと胸を撫でおろしている。
 いきなりだが、私は感情表現が乏しい。家人にも「あなたは嬉しいんだか、悲しいんだかさっぱりわからない」とよく言われる。
 それを唯一取り払ってくれるのがサッカーだ。特に日本代表の試合である。
 日本代表の試合を見るとワクワクする。勝てば声を挙げて喜ぶし、負ければ、普段の仕事に影響が出るほどに落ち込む。
 去年の十月に行われたロシアワールドカップのアジア最終予選、対イラク戦で、後半アディショナルタイムに山口蛍が決勝ゴールを決めた瞬間、家でテレビ観戦をしていた私は喜びのあまり、絶叫しながら、部屋の床をゴロゴロと転げまわった。運よく家人はいなかったが、飼っていた二匹の猫は、普段見せない私の姿に、あきらかに引いていた。
 そんな日本代表に私は夢を見たのだ。
 このときは勝利したが、アジアではなく、日本が世界と戦った場合、特に、ワールドカップの舞台では、厳しい現実を突きつけられている。
 その日本代表に、もしも世界でも活躍できる圧倒的な『個』の力を持った、日本人プレーヤーが現れたとしたら──。
 そういう願望も入れつつ『ギキョウダイ』を書きあげた。
 最初は不安に思っていたが、サッカーを取り入れたおかげで『ギキョウダイ』は、ミステリーでもあり、ホラーでもあり、そしてスポーツ小説でもある、という既存にない作品になったと思う。
 ぜひ多くの方に読んでもらいたい。

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