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『双蛇密室』早坂 吝
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あとがきのあとがき

双蛇密室

『双蛇密室』

早坂 吝(はやさか やぶさか)

profile

1988年、大阪府生まれ。京都大学文学部卒業。京都大学推理小説研究会出身。2014年に『○○○○○○○○殺人事件』で第50回メフィスト賞を受賞し、デビュー。同作で「ミステリが読みたい! 2015年版」(早川書房)新人賞を受賞。他の著書に『誰も僕を裁けない』『アリス・ザ・ワンダーキラー』などがある。『○○○○○○○○殺人事件』文庫版が4月14日に発売される。

 本書の内容について語ることは何もない。上木らいちシリーズには二種類の作品がある。『○○○○○○○○殺人事件』『双蛇密室』が属する、純粋に推理小説の面白さを追求した作品と、『虹の歯ブラシ 上木らいち発散』『誰も僕を裁けない』が属する、推理小説的技法を用いて別の何かを表現した作品。前者の作品では、結末の驚きを損なわないようにしようという配慮が、自作について饒舌な作者の口をも封じる。したがって何も語ることはできない。

 仕方ないので、執筆過程で印象的だったことを書く。本書は蛇が出てくる推理小説なので、当然蛇に関する知識が必要だ。私は得意のグーグル検索を駆使したが、それだけではどうしても得られる知識に限界があった。しかし今回の執筆で、その限界を突破する方法を二つも発見した。一つは、日本語で検索してダメでも、英語で検索すれば求める答えが得られる場合があること。そしてもう一つは、学術論文を手軽に読む方法である。

 論文はネットで無料公開されている場合もあるが、有料公開の場合は非常に割高であり、そもそも公開されていないことも多い。知は独占されている!(唐突) 論文は普通の図書館にはなく、国会図書館にはあるが、私は大阪市在住なので気軽に行ける距離ではない。複写を郵送してくれるサービスもページを見ながらはできないので不便だ。八方塞がりに思えたが、救世主は思わぬところにいた。何と大阪市民であれば、登録料を払えば大阪市立大学の図書館を利用できるというのだ。事前にネットで書庫を検索すると、そこには私が求める論文が山のように所蔵されていた。

 英語の論文もあるので、私は大学時代に使っていた電子辞書を持ち、市大図書館を訪れた。小説とは違う無骨で分厚い書物がずらりと並ぶ本棚を見て、私は京都大学の図書館を思い出していた。思えば、私はカルトクイズ的な受験勉強は得意としていたが、大学の学問は自由すぎて逆に興味の取っかかりを見つけることができないでいた(その頃には小説家という明確な目標があったからかもしれないが)。そういう私にとって、自由すぎる学問の象徴である大学図書館は居心地の悪い場所だった。京大図書館は私に何ももたらさなかった。夢野久作全集で『ドグラ・マグラ』を読んだくらいである。その体験が、自分は知識人ではないのではないかというコンプレックスになっていた。

 しかし今回、私は市大図書館で大いに知識を得た。学生の時にできなかったことを補完することで、私は当たり前とも言える真実に気付いた。求める知識がない者にとっては、大量の書物もゴミである。しかし一たび知識を求めれば、書物は必ず応えてくれるのだ──と。早坂吝は新たなステージに進んだ。その結果生まれたのが本書『双蛇密室』である。

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