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『水の都 黄金の国』三木笙子
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あとがきのあとがき

『水の都 黄金の国』

『水の都 黄金の国』

三木笙子(みき しょうこ)

profile

1975年、秋田県生まれ。2008年に『人魚は空に還る』でデビュー。同作を第1作とする「帝都探偵絵図」シリーズが人気を博している。著書に『クラーク巴里探偵録』『怪盗の伴走者』『百年の記憶 哀しみを刻む石』など。

 空想に勝る現実などあるわけがない。

 現実とはどうしようもないもの、つまらぬもの、忌々しいものと思い続け、そして今もそう思っている。

 だからこそ小説を書くのだ。

 何しろ自分の思い通りになるし、嫌な人間は出てこないし、最後はハッピーエンドになるのだから、作り話万歳である。

 己の頭の中ならば、どんなに細かい点までも理想通りに創り上げることができるのだから、現実が空想に勝てる可能性などありはしない。

 さて、ヴェネツィアである。

 水の都、海に浮かぶ街、迷宮、ゴンドラ、仮面──と思いつくままに並べてみても、あまりに好みで息が苦しくなる。

 こんな夢のような場所が本当にあるのか。

 行ってみたいとは思ったが、実際に行けばがっかりするだろうなとも思っていた。

 写真集を眺め、ガイドブックを熟読して、期待値を上げに上げている以上、「私の中のヴェネツィア」は理想郷レベルに達している。

 だからきっと、「一度行ったからもういいや」ってことになるだろうと思っていたのである。

 が、そうはならなかったのだ。

 ヴェネツィアに滞在して、といっても日本人のツアーだから、最大二日がいいところなのだが、その間、私の心のメーターは振りきれていた。

 時間の許す限り歩き続け、胃袋の許す限りカフェラテを飲み続けた。

 普段ならば絶対にやらないが(年のせいで体力が持たないため旅先では早く寝ている)、夜になっても夢遊病者のようにうろうろとさまよっていたのである。

 空想よりも上?

 そんなことがありうるのか!

 価値観をこっぱみじんに破壊してくれたこの魔法のような街を舞台に、今回、小説を書いた。

 日本でいえば明治時代、黄金の国ジパングからやって来て、着物姿のまま水の都を闊歩する青年・誠次郎と、金髪碧眼のバーカロ店員・ルカが主人公である。

 そしていずれもヴェネツィアにふさわしい幻想的な謎を用意した。

 マルコ・ポーロのように東方で財を成した大富豪が花売り娘を探す「黄金の国」。

 ゴンドラに乗った仮面姿の怪人が金貨をばら撒くという「水の都の怪人」。

「カサノヴァ」とあだ名された男が魚雷の設計図を盗む「錬金術師の夢」。

 ガリレオの望遠鏡を逆さにのぞいたせいで姿を消した米国人を探す「新地動説」。

 一緒にヴェネツィアの魅力にひたっていただければ幸いである。

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