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『かわいいだけじゃない私たちの、かわいいだけの平凡。』最果タヒ
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あとがきのあとがき

『かわいいだけじゃない私たちの、かわいいだけの平凡。』

『かわいいだけじゃない私たちの、かわいいだけの平凡。』

最果タヒ(さいはてたひ)

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詩人・小説家。第44回現代詩手帖賞を受賞。『グッドモーニング』(思潮社)で、第13回中原中也賞を受賞。昨年出版した『死んでしまう系のぼくらに』で注目を集める。

 世界ってなんだよ。
70億人ってなんだよ、ウイルスの数にしか思えない。友達なんて少ないし、人類とか言われても困る。そんなのはある意味、愛とか希望とかそんな言葉より抽象的だ。世界のために戦えって、言われて笑っちゃう気分になるし、たとえそれが現実だとしても、やっぱりどこかで信じられない。

 なんで、ニュースで人が死んだと聞いて、いちいち泣くことがないんだろう。近しい人が死んでしまったら悲しいし、近しい人の近しい人が死んでしまってもやっぱり涙が出てしまう。それでも、それがどんどん遠くなっていくと泣かなくなる。ニュースが辛い、と思うことは多いけれど、辛いのと、泣いてしまうことはどこか違う。遠のいていけること、テレビのスイッチを切れば、なかったことにできること、それがすでにどこか異常だ。そんな神経、生まれた時から備わっているんだろうか。最低。

 世界を救うために戦う子がもしもいて、その子がもしも、愛とか友達とかそういうことに頭を使いすぎて、まともに戦うこともしなくて普通の女の子に戻りたいとか喚いていたら、やっぱりいらってするのだろうか。全く関係ないどこかの誰かの肩に、世界の命運が、自分の命運がのしかかっているとしたら、がんばれよって言ってしまうんだろうか。自分じゃ、戦えないのに? でも、だからって、きみが決めたことなら滅んでもいいよと言えるほど、私、その子のこと知らないし。友達と明日、映画見に行くんだからもうちょっと踏ん張ってよ、とか思っちゃうのかな。最低。

 結局、よく知らない人間のことなんて、人間として見られない。70億人のしあわせ考えて生きたら、たぶんどうやっても苦しくなるし、正義の味方になろうが、傍観者になろうが、そんなのは無理だ。だからせめて、正義の味方にも、友達のことを考えていてほしい、世界のためなんて言わないでほしい。最後まで、仲がいいだれかさんのこと、喧嘩したばかりのお母さんのこと、憧れているアイドルのこと、部活の先輩、そんなものを考えていてほしい。それだけでいてほしい。いていいよ、って言いたい。それで、世界が滅ぶのはちょっと残念だけどね。
(今、新刊について考えたらそんなことを思いました。ネットの力で変身する魔法少女のお話です)

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