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『さくらゆき 桜井京介returns』 篠田真由美|あとがきのあとがき|webメフィスト
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あとがきのあとがき

『さくらゆき 桜井京介returns』

篠田真由美 (しのだまゆみ)

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『未明の家』から始まる「建築探偵桜井京介の事件簿」シリーズで多くの支持を得る。「黎明の書」シリーズなど、人気シリーズを多く執筆している。

 一度閉じた物語を再び語り出すことのマイナスを、考慮しなかったわけではない。『燔祭の丘』のあとがきで、某有名マンガまで引き合いに出して、終わるべきときに終われなかった物語は不幸だ、とまでえらそうにいったくせに、こうして続編に手を染めるのはどういう未練だ、と笑われることも覚悟していた。

 書いてしまったのは事実だからいまさら言い訳する気はないが、これだけはいっておきたい。先に彼らの復活ありきで、話をこね上げたわけではないのだ。脳中に新しくやってきた物語をたぐり始めたら、そこに登場するのにもっともふさわしいのは新しい誰かではなく、旧知の桜井京介、薬師寺香澄、神代宗だった。およそ書き手のコントロールに従わぬ彼らは、そうでなければ動き出してはくれなかったろう。

 実をいえば作者の中には、後日談以上に前日談が色濃く存在する。原書房の『黄昏に佇む君は』を初めとする、神代宗主人公の物語群もそれだし、桜井京介の高校生時代の話などというのも、まだ漠然とではあるが揺らめいている。しかしそれは形になるかもしれないし、ならないまま終わるかもしれない。

 無責任に聞こえたら申し訳ないが、作者としては正伝ともいうべき「建築探偵」シリーズ十九冊を書き上げたことで、ひとつの責任は果たしたつもりでいる。後はいわば余生、おまけの営みであり、その軸のひとつとなるのが神代宗という男の物語で、おまけも含めてすべての大団円は神代が養家との葛藤に決着をつけるエピソードだろうという、これも曖昧な予感はあるが、書く前に作者の生命が尽きても仕方ないとも思う。

『さくらゆき』は、個々の短編も一冊の本としても、正伝とは関わりなく読めるものをと考えて、探偵役もなんだかよくわからない謎めいた家政夫で通るように心がけたが、その意図がどこまで貫徹されているか作者にはわからない。

 来年三月刊行予定の『屍の園』は、これも世界は同じながら正伝とは切り離された話を書くつもりが、当初予定から外れて桜井京介以前の彼の物語となってしまった。正伝を知らぬ読者には不親切にならぬよう、正伝からの読者にはいっそう喜んでいただけるように。それが書き手の願いだが、上手くいっているかどうかお手に取って確かめていただければ幸いです。

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