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『硝子の探偵と消えた白バイ』 小島正樹|あとがきのあとがき|webメフィスト
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あとがきのあとがき

『硝子の探偵と消えた白バイ』

小島正樹 (こじままさき)

profile

埼玉県生まれ。2005年、島田荘司氏との共著により『天に還る舟』(南雲堂)を上梓。2008年『十三回忌』(原書房)で、単独デビューを果たす。著書に『武家屋敷の殺人』『四月の橋』(ともに講談社)など。

 大藪春彦さんのすべての小説と、藤原審爾さんの『拳銃の詩』。松田優作さんの映画「遊戯」シリーズや、テレビドラマの『探偵物語』――。

 ハードボイルドな主人公が活躍する物語が、私は大好きでした。

 本格ミステリーを夢中で書き続け、ようやく最近、ほんの少しだけ余裕ができて、ふと思ったのです。
「本格ミステリーとハードボイルドの融合作を、そろそろ書けるのではないか」

 思い立ったら、即実行でございます。さっそく考えてみました。けれど難問が!

 事件が起きて、容疑者が三人いたとします。本格ミステリーであれば、探偵役の主人公が叡智によって、三人の中から真犯人を見つけ出します。

 では、ハードボイルドな人が探偵だと、どうなるか? なにしろ非情でございますから、三人の容疑者を壁際に並べ、機関銃で全員殺して「はい、お終い」となりかねません(笑)。これでは小説として成り立ちませんね。そこで私、考えました。非情になりきれない男を主人公にすればいい。

 そう思った瞬間、「トリック&ライトハードボイルド」という言葉が浮かび、物語の原風景が、鮮やかに広がったのです。一気に開けた風景を、半ば呆然と眺めながら、「絶対面白い物語になる」と、私は確信致しました。

 主人公は朝倉透。眉目秀麗ではありますが、かなり怠惰で、仕事は助手の高杉小太郎に任せっきりです。

 朝倉に代わって働く小太郎は、清潔感溢れる好青年で、常人の数倍の聴力を持ち、耳を澄ませて事件を推理していきます。

 そんな二人が立ち向かうのは、警察官を狙った怪事件。

 袋小路に入った白バイが、わずか十秒で消失し、そのあとで、絶対に立ち入ることのできない場所に現れる。そして誰もいない空中から、突然銃弾が飛んでくる。

 珈琲ばかり飲んで、なにもしない朝倉をよそに、冴え渡る小太郎の推理。けれど若く美しい警視庁の理事官を巻き込み、事件は思いがけない展開を見せる。

 苦境に立つ朝倉たち。だが、たったひとつの「ある事柄」によって、事件は根底からひっくり返る―。

 とんでもない謎と、とんでもない男の物語。「トリック&ライトハードボイルド」、できました!

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