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『水晶の鼓動 警視庁捜査一課十一係』 麻見和史|あとがきのあとがき|webメフィスト
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あとがきのあとがき

『水晶の鼓動 警視庁捜査一課十一係』

麻見和史 (あさみかずし)

profile

‘65年千葉県生まれ。‘06年『ヴェサリウスの柩』で第16回鮎川哲也賞を受賞し、デビュー。他の著書に『真夜中のタランテラ』、「警視庁捜査一課十一係」シリーズがある

 熱量は不足していないか?」日々自分にそう問いかけながら、この作品を書き上げました。

 執筆が軌道に乗るまでには少し時間がかかりました。当初、シリーズ三作目ということで雰囲気を変えたいと思い、変化球といえるような作品を書いていたのです。しかし打ち合わせの際、「熱量が足りない」という指摘を受けて、はっとしました。

 ここでいう熱量とは、作品の持つ「器の大きさ」だと思います。作品自体の器が小さいと、完成品もこぢんまりしたものになってしまう。「全問正解しても八十点」というテストでは、どんなに頑張っても九十点を取ることはできません。だから最初の段階で、できるだけ器を大きくしなければならないわけです。

 思い切って私はその作品を捨て、新しいストーリーを練り始めました。
『石の繭』『蟻の階段』を経て、新米刑事・如月塔子には成長の跡がみられます。今回は彼女がさらに一歩先へと進むよう、「塔子がかつてない窮地に陥る」という展開を考えました。また、作品の熱量を重視するため、スケールの大きな事件を用意することにしました。

 冒頭に提示されるのは、ラッカーで真っ赤に染められた部屋と、屋外に放置された遺体の謎です。その事件を追っているうち、都内で連続爆破テロが発生。「東京壊滅の危機」というプレッシャーが塔子たち捜査員を苦しめます。はたしてこの殺人事件は解決できるのか。東京はどうなってしまうのか―。

 これで物語の器は相当大きなものになりました。あとは着地の問題です。

 このシリーズで私が目指していたのは、警察小説と推理小説との融合でした。塔子が直感的な閃きを伝え、相棒・鷹野秀昭が探偵役となって謎を解き明かす。終盤には物的証拠を積み上げていくという、警察官ならではの推理方法を用いました。

 殺人、爆破事件のサスペンスと、意外な真相の解明。『水晶の鼓動』は緊張感のある警察ミステリーとして完成しました。

 さて、シリーズ三作目が出来上がった今、作者はあらたな作品の準備を始めています。最新作はかなりシビアな猟奇殺人ものになりそうです。

 次回も「熱量は不足していないか?」と自問しながら、ダイナミックな物語を作り上げたいと考えています。


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