講談社BOOK倶楽部

『蔵盗み 古道具屋 皆塵堂』 輪渡颯介|あとがきのあとがき|webメフィスト
webメフィスト
講談社ノベルス

あとがきのあとがき

『蔵盗み 古道具屋 皆塵堂』

輪渡颯介 (わたりそうすけ)

profile

1972年、東京都生まれ。明治大学卒業。2008年に『掘割で笑う女 浪人左門あやかし指南』で第38回メフィスト賞を受賞し、デビュー。主な作品に『無縁塚』『古道具屋 皆塵堂』などがある。

 江戸の片隅にひっそりと構える皆塵堂という古道具屋を舞台に、曰く品を巡って騒動が巻き起こる、「皆塵堂」シリーズの三作目です。
 怪談です。幽霊話でございます。

 一作目の『古道具屋 皆塵堂』を書いた時には、まさかその後もシリーズが続くとは思っていませんでした。そのため戦力の適宜投入など考えるはずもなく、道具を巡る怪談話の定番商品を遠慮なくつぎ込みました。簪、箪笥、刀、櫛などです。

 二作目の『猫除け』では、掛軸や鏡、根付、さらには藁人形や五寸釘といった丑の刻参りの道具まで出しました。

 そして今回の『蔵盗み』。さすがにもう書く材料がないと泣きそうでしたが、必死で考えれば出てくるものです。皆塵堂の主が釣り好きなので、釣り竿の話を書きました。また、皆塵堂は夜逃げした店や死人の出た家から古道具を安く引き取る店なので、特定の道具には拘らず、道具の買い取りに行った家そのものに曰くがある幽霊屋敷の話も入れました。さらに、まだ人形の話を書いていなかったことも思い出しました。

 人形といえば怪談話の定番中の定番です。しかしそれだけに、初めはどう書くか悩みました。人の形をした物には霊が宿りやすい、と聞いたことがあります。しかし、その物に対する未練や執着次第では「人」形以外に取り憑くこともあるのではないか、動物の形をした物に取り憑いても面白いのではないだろうか、などと思ったのです。

 もちろん、物語を書く身としては、そこは慎重に考えないといけません。例えば現代で考えた場合、同じ熊であっても、「某有名キャラクターの熊のぬいぐるみに取り憑いた幼い女の子の霊」だったら悲哀を含んだ怖さがありますが、これが「北海道土産の木彫りの熊に取り憑いた中年男の霊」だと情緒の欠片もありません。おっさんが鮭を咥えて何がしたいんだっていう話です。まあ、この場合は木彫りの熊より中年男の方が問題なのでしょうが。おじさんが人形に取り憑いちゃいけません。

 いろいろと考えた末、結局は人の形をした物の方が怖いだろうというところに落ち着きました。可愛い童女の三ツ折人形です。しかしそれには……。

 この『蔵盗み』は、個々の話はもちろんのこと、全体を通しても謎が多くて面白い仕上がりになっています。お手に取って頂ければ幸いです。



Backnumber

My Precious講談社ノベルス 立ち読みメフィスト あとがきのあとがき 日常の謎
メフィスト賞とは?