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『魔境の女王陛下 薬師寺涼子の怪奇事件簿』 田中芳樹|あとがきのあとがき|webメフィスト
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あとがきのあとがき

『魔境の女王陛下
薬師寺涼子の怪奇事件簿』

田中芳樹 (たなかよしき)

profile

熊本生まれ。‘78年に『緑の草原に……』で第3回幻影城新人賞を受賞しデビュー。以来、『銀河英雄伝説』『創竜伝』『アルスラーン戦記』など大ヒットシリーズを発表。

 ロシアでラスプーチン、じゃなかった、プーチン氏が通算三期めの大統領に就任し、メドべージェフ氏が首相になった。いいコンビというべきか、国際政界のバットマンとロビン(笑)というべきか、まあ流血がなかったのはいいことです。

 でもって、ビクトル・イシャエフという人がいるのだが、この人は「極東連邦管区大統領全権代表」だった。それがこのたび、内閣の一員として、新設の「極東発展大臣」を兼任するという。よかったですね、といいたいところだが、制度上、大統領の部下だか首相の部下だか、よくわからない。それに「極東連邦管区大統領全権代表兼極東発展大臣」じゃ長すぎる。古風だが「極東総督」にでもしといたほうが、短くてわかりやすいと思う。あ、いえ、内政干渉する気はありません。ただ、シベリアを舞台にして、ジャンル不詳の作品を書いたばかりなので、ちょっと気になっただけです。この人、どこにいて仕事をするんだろうな。

 日本や欧米では適当に「シベリア」と呼んでいるけど、ロシアでは、西シベリア、東シベリア、極東、と、厳密に三区分するらしい。ロシアは東西に長くて長くて長くて、首都モスクワはその西端に位置する。モスクワから国内のウラジオストクまで約八千キロ、国外のパリまで二千キロそこら。あきらかにかたよりすぎてる。もっと国土の中心に近く、オムスクとかノボシビルスクとかに遷都しろ、という意見が出るのも、ごもっともである。

 せっかく「総督」職をつくったのに、モスクワにいるんじゃ、現地感覚が養われないだろう、よけいなお世話ですが。ウラジオストクあたりに常駐するのかな。だいたいウラジオストクをもうすこし正確に表記すると、ヴラジ・ヴォストークになる。意味は「東方を制覇せよ」と、ずいぶん景気がよろしい。昔の中国風にいうと、「征東都督府」だもんな。実際に中国領だったころは、「海参威」と呼ばれていた。「ナマコの入江」という意味で、漁師たちがナマコを採っては食材として売ってたらしい。近代とは、のんびりナマコを採っていたアジア人の小舟を蹴散らして、ヨーロッパ人が軍艦や砲台をならべる時代だった、ということがよくわかるお話だ。

 とりあえず、いまのところ極東方面にはモスクワの目も手もとどきにくいので、それをいいことに薬師寺涼子サンは今回もやりたい放題やっております。泉田クンの股間をけとばすチャンスもあったし、めでたしめでたしってことで……。


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