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『さよならファントム』 黒田研二|あとがきのあとがき|webメフィスト
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あとがきのあとがき

『さよならファントム』

黒田研二 (くろだけんじ)

profile

1969年三重県生まれ。2000年『ウェディング・ドレス』で第16回メフィスト賞を受賞しデビュー。近著は『CUTE&NEET』。ゲームソフト「真かまいたちの夜 11人目の訪問者」に執筆陣の一人として参加している。

 健康維持のため、できるだけ自分で食事を作るよう心がけているのだが、これがまあ驚くほどまずい。インスタントラーメンをどうしてここまでまずく作れるの? と不思議がられるくらいの料理下手である。どんな美味しい素材も調理次第。それは小説の執筆にもいえることだろう。

『さよならファントム』のメイントリックを思いついたのは、今から約五年前。最初は短編にするつもりだった。……というか、短編でなければ成立不可能なトリックだと思っていた。いや、実際に短編として書き始めたものの、そのトリックを具象化するのがあまりにも難しく、結局、途中で放り出してしまった。そのまま脳の片隅に追いやられ、分厚く埃をかぶって、もはや陽の目を見ることはないだろうと思われたトリックだが、『ナナフシの恋』以来、四年ぶりに新作を書くこととなり、もう一度取り組んでみようかと埃を払ってみることに。しかも、今度は長編化だ。ある程度覚悟はしていたが、笑ってしまうくらいうまくいかない。調理方法がまったくわからないのだ。生のままでは食べられず、焼いてみたら焦げ、煮たら崩れ、油で揚げたら爆発し……作業は難航した。もうダメだ!

 と音をあげそうになったときに思いついた調理法が、しゃべるクマのぬいぐるみ「クーニャ」を登場させることだった。苦し紛れでひねり出したアイデアだったが、これが意外にうまくいった。クーニャという調味料で、素材同士が予想以上の化学反応を起こし、新たな旨みまで現われたときには、「オレって天才かも」とにんまりしたほどだ。結果、満足いく作品が完成した。クーニャ様々である。

 出来上がってみて気づいたが、『さよならファントム』は僕がとくに気に入っている過去の作品―『今日を忘れた明日の僕へ』と『クレイジー・クレーマー』を混ぜ合わせ、さらに熟成させたような物語になっている。『クレイジー・クレーマー』にはテディ・バディと呼ばれるクマ型ペットロボットが、重要なアイテムとしてホラーチックに登場する。しばらくの間、入手困難な作品だったが、本誌の発売と前後して文庫化される予定なので、ぜひ読み比べていただきたい。

 では小腹が空いたので、そろそろ晩飯にしよう。クーニャなみの調味料が手に入れば、僕にだって美味しい料理を作ることができるんだけどなあ。



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