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『覇王の死 二階堂蘭子の帰還』 二階堂黎人|あとがきのあとがき|webメフィスト
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あとがきのあとがき

『覇王の死
 二階堂蘭子の帰還』

二階堂黎人 (にかいどうれいと)

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1959年、東京都生まれ。'92年に『地獄の奇術師』でデビュー。以来、注目を大いに集める本格ミステリを次々と上梓。近著に『東尋坊マジック』『僕らが愛した手?治虫《激動編》』がある。

『覇王の死』を読んだ読者から手紙をいただいた。「とうとう、蘭子さんが帰国しましたね! あれから十四年ですね!」と書いてあって、あれっと首をひねった。『人狼城の恐怖』の最後で行方不明になり、時系列的には三年後に帰国したと『覇王の死』で書いたつもりだったからだ。それに、その二作の間にも、『悪魔のラビリンス』『魔術王事件』『双面獣事件』と、蘭子さんの探偵譚を発表し続けてきた。

 それから、ああ、そうかと納得した。つまり、読者の頭の中では、両者の小説世界は十四年間もの間―いい意味で―凍りついたままだったわけである。

 それにしても、何な故ぜ、あの時、私は蘭子さんをヨーロッパで失踪させたのだろう。はっきりした理由は思い出せないが、一つには私の体調が悪かったせいだろう。当時、慢性胃炎や胃潰瘍で激しく苦しみ、私は一年間で十五キロ以上痩せてしまった。蘭子シリーズを書くのは、精神的にも肉体的にもかなりきつい作業なので、しばらくは、彼女のことや、彼女の次の事件のことを考えたくないと思った可能性がある。

 実を言えば、その時には〈ラビリンス・サーガ〉を書く予定はなかった。ただ、『悪魔のラビリンス』に収めた、走る列車の密室殺人というトリックを思いついた時、急に、魔王ラビリンスという仇敵が蘭子さんの前に現われたのである。そして、この極悪人の出自を探るうちに、第二次世界大戦を背景とした〈迷宮計画〉という秘密まで生まれたのだ。そこに『覇王の死』で明らかになる徳川幕府の財宝まで絡んだのは、『魔術王事件』による副産物であった。『魔術王事件』では、ディケンズの未完小説『エドウィン・ドルードの謎』の真相に挑戦した。その価値を解ってくれる人は日本に十人くらいしかいないのではないかと、当時、文芸図書第三出版部の宇山日出臣部長と話し合った(そもそも、ディケンズを読んでいる人が少ないだろうし)。だから、あの田中芳樹先生に『魔術王事件』の結末を誉めてもらった時には、本当に嬉うれしかったし、有り難かった。

 なお、『覇王の死』の冒頭で、「貴方の不要な命を高価買い取りします」という文言が出てくるが、これは敬愛する手?治虫先生の『サンダーマスク』という作品からお借りしたものである。エピローグ部分のラビリンスに関する疑惑は、『バンパイヤ』のラストでの疑惑と呼応している。

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