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『QED 伊勢の曙光』 高田崇史|あとがきのあとがき|webメフィスト
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あとがきのあとがき

『QED 伊勢の曙光』

高田崇史 (たかだたかふみ)

profile

昭和33年東京都生まれ。明治薬科大学卒。『QED 百人一首の呪』(講談社ノベルス)で、第9回メフィスト賞を受賞しデビュー。代表作に『QED』シリーズ、『カンナ』シリーズなど。

 やはり宇山さんのことを。すでに色々な場所で書いているように、この「QED」という題名は、故・宇山日出臣さんに名付けていただいた(ちなみにボツになった元々の題名は『QED 百人一首の呪』の目次にこっそりと暗号で書いてある)。

 その『QED 百人一首の呪』が上梓された際に、ぼくが生まれて初めてサインさせていただいたのが、当時の文三編集長・宇山さんだった。メフィスト賞おめでとうの食事会で、受賞記念のシャーロック・ホームズ像と共にぼくの本を手渡され、その時に面と向かって真顔で、「サインをお願いします」と言われた。

 サインどころか「自分の本」という物体を手にしたのも初めてだったために、ぼくは動転してしまい、ただ単純に宇山さんのお名前と自分の名前を縦に並べて書いた。それ以降ぼくのサインは、ほんのわずかな例外を除いて、縄文式土器のようにずっとそのパターンを踏襲している。

 そして先日、シリーズ完結編の『QED 伊勢の曙光』が上梓され、大阪・東京でサイン会が開催された。するとその場に宇山さんの奥様がお見えになって、しかも最終日の最後尾に並ばれて本を差し出され、「為書き(名前)を、宇山日出臣にしてください」と言われた。

 奇しくも「QED」に関して十三年前に生まれて初めて書いた為書きと、完結編のしかも公の場で最後に書かせていただく名前が両方とも「宇山日出臣」となった。偶然といえば単なる偶然の出来事なのだが、その確率は一体どれほどになるのか。ただ単純に、何千分の一という計算で収まらないことだけは確実だろう。そこで驚きながらも筆を手にしたのだが、突如、宇山さんの人なつっこい笑顔と少し虚無的な目つきが頭に浮かんで、名前を書きながら、不覚にも泣きそうになってしまった。

 今でもまだ宇山さんに、じっと見守られている(見張られている?)のだろうか。実はあの時、宇山さんはサイン会場のどこかにおられて「紛れもなく、驚いたでしょう?」などと笑っていたのだろうか。そういえば会場には、宇山さんが生前、大好きだとおっしゃっていた作家さんたちも数人お見えになっていたし……。「QED」シリーズ完結にあたり、この場をお借りして、故・宇山日出臣(秀雄)氏に、衷心より永遠の感謝を捧げます。

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