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『闇の喇叭&真夜中の探偵』 有栖川有栖|あとがきのあとがき|webメフィスト
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あとがきのあとがき

『闇の喇叭&真夜中の探偵』

有栖川有栖 (ありすがわありす)

profile

‘59年大阪市生まれ。同志社大学法学部卒業。‘89年『月光ゲーム』でデビュー。以降「新本格」ミステリムーブメントの最前線を走り続けている。

 何冊になるか判らないシリーズの二冊目が出たところで「あとがき」というのも変なのだが、せっかく誌面を与えられたので、未読の方への紹介としてコメントさせていただく。

 このシリーズ(どこにも謳っていないが、シリーズ名は『ソラ』しか思い浮かばない)は、特別な才能に恵まれているわけでもない十七歳の少女・空閑純が、「私的探偵行為が犯罪になる社会」で、探偵になろうとする物語である。舞台は、北海道が社会主義国家として独立し、分断国家となった〈もう一つの日本〉。今ここにある日本より全体主義的、抑圧的で緊張感が高い。

 彼女が禁じられた探偵になろうとする理由は、『闇の喇叭』で描いた。私の作品で、探偵になる動機がこれほど鮮明なものはない。

 従って、読者にはある種の負担を強いるのだが、このシリーズは第一作『闇の喇叭』から順に読んでいただかなければ、映画を途中から観るような判りにくさが生じる。大河小説(というほど長大なものになるかは不明だが)だと思ってご諒承いただきたい。

 第一作『闇の喇叭』は、当初ヤングアダルト向けのレーベルに書いたものだが、内容的にはまるでソフトなところがない。私自身が十代の頃に感動したアメリカン・ニューシネマやその流れを汲む映画(『バニシング・ポイント』や『カッコーの巣の上で』など)を、自分なりに再現したくて書いたからだ。

 そんな小説世界にあってもユーモアは捨ててはいないが、不思議の国で冒険したアリスと同じく、純はへらへら笑わない。天然ぶりが笑いを誘うことはあるとして。「そんなものは今どき流行らない」という内なる声も聞こえたが、完全に黙殺した。かつて「そんなものに未来なんてない」と言われた本格ミステリを書いて作家になった人間だから、何のためらいもない。

 等身大の少女が困難に挑む青春小説としてお読みいただいてもいいし、ひねくれたミステリとしてお楽しみいただいてもかまわない。読者は常に自由だ。

 私がこれまでどんな小説を書いてきたかご存じの方には難しいかもしれないが、作者が有栖川有栖という作家であることを忘れてお読みいただけるとありがたい。

 最後に予告。第三弾『論理爆弾』の舞台は九州。純は『八つ墓村』的な村落に引き寄せられる。



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