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『メルカトルかく語りき』 麻耶雄嵩|あとがきのあとがき|webメフィスト
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あとがきのあとがき

『メルカトルかく語りき』

麻耶雄嵩 (まやゆたか)

profile

1969年三重県出身。京都大学在学中の'91年『翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件』でデビュー。『隻眼の少女』で第11回本格ミステリ大賞ならびに第64回日本推理作家協会賞を受賞。

『メルカトルかく語りき』に収められている短編の中で、一番最初に書いたのは「答えのない絵本」です。

 これはメフィスト学園のシリーズの一環で、単発作品として書いたものですが、書き終えたとき、「さすがに、これは額面通り受け取ってくれないだろうな」という不安が強く過ぎりました。

 犯人当てというか、ロジック重視のミステリとしては袋小路の作品で、それはそれでいいのですが、塀で囲まれた曲がり角を一つ曲がったところにゴール地点があるので、誰もゴールの旗に気がつかないというか……。

 ならば、要所要所に目印となる旗を立てた方がいいだろう、つまり短編集の形になったときに同趣向の短編で徐々に毒を強める形になっていれば、読み手も最後には免疫が出来ているんじゃないかと、いわば橋渡しの意味合いをこめて書いたのが、「死人を起こす」から「収束」に至る三つの短編です。

 もちろん橋渡しだからと場つなぎ的な感覚で書いたわけではなく、むしろ趣向が似ている分、結末の差異化にはかなり気を使いました。同じオチが続くと面白くないですから。結果として、うまく散らばったかなと思っています。

 また“橋渡し”ゆえに、少し縛られるところもありました。例えば「死人を起こす」は、推理の前半の「××が犯人だ!」で終わっても良かったのですが、役割上、推理を穏便にするため後半部分を入れざるを得ませんでした。短編集としてはともかく、単品で見た場合、入れた方が良かったのか、入れない方が良かったのか、自分の中で決着はまだついていません。

 逆に「収束」は、縛りを意識したことによって、ワンアイディアが加算され、当初の構想よりも一段階面白くなったように思います。手前味噌かもしれませんが。縛りのない状態で書いていたなら、猫は出てこなかったはずです。

「九州旅行」のふざけた中盤もあの結末が先にあってこそです。

 どの短編も、オーソドックスな短編集の中に一本だけ紛れ込んでいたなら、浮いてしまいかねない鬼っ子たちですが、そんな鬼っ子たちが『メルカトルかく語りき』という本の中で居心地よく並んでいるのを見て、企画として成功だったかなと、ほっとしています。



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