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『シンフォニック・ロスト』 千澤のり子|あとがきのあとがき|webメフィスト
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あとがきのあとがき

『シンフォニック・ロスト』

千澤のり子 (ちざわのりこ)

profile

1973年東京都生まれ。2007年、宗形キメラ名義で二階堂黎人氏との合作『ルームシェア 私立探偵・桐山真紀子』を発表。2009年に『マーダーゲーム』で単独名義でのデビューを果たす。

 突然だが、私の名刺はすごくかわいい。リバーシブルになっていて、片面は黒地に桜色でライター名義と連絡先、反対側はピンクの桜模様に〈作家 千澤のり子〉とだけ表記されている。デザイナーの友人がプレゼントしてくれたものだ。

 「しか(私の通称)の仕事は歴史に名を残せるんだよ。友達として誇りに思ってる」

 原稿が没になったすぐ後、友人は私に言った。彼女は、中学時代の吹奏楽部の仲間だ。部長を務め、人気者で、実力もあった彼女。逆に、人より練習していてもまったく上達せず、孤立していた自分。憧れていたのは、私の方だった。ダメなままじゃダメだ、意地でも刊行してみせると思った。

 あの頃の感情をそのまま詰め込んでみようと、なりふりかまわず書いた二回目も没。登場人物たちの動きが不自然、ストーリーがぶつ切れ、トリックが活かせてないとのことだった。「まったく真相を知らない人の意見が気になりますね」ということで、三回目の書き直しの後、信頼できる人にモニターをお願いした。その後さらに総修正をして提出。しかし、それでも没。青春の熱さが足りないと指摘を受けた。人情に厚く見えるけど、実はあらゆる点で冷めているという性格が、仇となったのだ。

 とにかく感情的になれるようにと、カラオケに通いまくり、ネット上で人と交流できるゲームを続け、大勢の人と語り合える機会を持つようにした。他人をもっと温かい目で見つめようと心がけ、不眠不休で書いたら、ようやく承諾を得られた。さらに、全体のバランス調整と伏線の追加で、校正中も大幅に手を加えている。いったい何回書き直したのだろう。思い出すのも怖ろしい。

 こうして『シンフォニック・ロスト』は世に出た。だが、無冠無名の若輩作家に、現実は厳しい。現在七十軒ほどの書店まわりを行い、世間の風の冷たさを実感している。それでも幸い、目にする感想は、ありがたいものが多い。自分の願いどおり、再読せずにはいられない作品らしい。

 結果の出ない努力はかっこ悪いと、ずっと思って生きてきた。でも、ひとつのことにひたむきになってる姿って、実はかっこいいのかもしれない。頑張っていれば、誰かがきっとあなたを見ていてくれる。本書には、そんなテーマが隠されている。

 そうそう、騙されたと思って手にとってみてください。ほんとに騙されますから。


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