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『聖地巡礼』 真梨幸子|あとがきのあとがき|webメフィスト
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『聖地巡礼』

真梨幸子 (まりゆきこ)

profile

1964年生まれ。05年に『孤虫症』で第32回メフィスト賞を受賞しデビュー。人間の業や執念を描かせると天下一品の注目の書き手。他の作品に『深く深く、砂に埋めて』や『更年期少女』など。

「作家」。この響きに憧れて、投稿を繰り返していた修行時代。

 当時、私は「フリーライター」という肩書きだった。カタカナにすればサマになっているが、要するに、「下請け」。しかも、私の場合は孫請けだったり、ひ孫請けだったりするものだから、私に割り当てられるギャランティはわずかだった。例えれば、町工場。大手メーカーの注文に応じて一つ何銭の部品を作る。一国の主といえば聞こえはいいが、町工場の経営者は辛い。セカンドバックを携えて、金策に走る日々。世間はこれを、自転車操業という。

 自転車を漕ぎ続ける体力が年々薄れ、私は「作家」を目指した。作家になれば、もしかしたらまだ先があるんじゃないか、光があるんじゃないか。だって、ドラマや映画に出てくる作家は、あまりに輝いている。でも、さすがに虚構を真に受けてはいけない。真実を見るために、プロ作家さんのホームページをのぞいてみる。すると、担当編集者と豪華な取材旅行、銀座の高級レストランでお食事会、フォアグラ、キャビアが飛び交う各種パーティ……。

「やっぱり、作家ってすごい!」

 恥ずかしながら、当時の私は化粧品もまともに買えない有様で、スキンケアからメイクの下地まで、ベビーオイルで済ませていた。このままじゃ、四十過ぎたらとんでもないことになるじゃないか? シワシワのシミシミのダルダルになってしまう! 早く、作家にならなくては!

 そして、今。デビューして、すでに丸五年が過ぎた。しかし、いまだに、ベビーオイルでスキンケア。あれ? 先日は、水道まで止められそうになった。ちなみに、電話はもう何度も止められている。あれ? なんか、昔よりひどくなってないか?

 ……ということで、新作の「聖地巡礼」は、パワースポットが舞台。ですが、メジャーな場所はいっさいでてきません。だって、屋久島だの出雲だのセドナだの、行けるわけがないじゃないですか。なにしろ、自力で取材しなくては。担当さんと取材旅行だなんて、私には百年早いのです! なので、私が今まで行ったことがある地域から、辛うじてパワースポットと呼ばれているスポットを選んでみました。でも、決してチープな作りではありません。お金がかけられない分、私の妄想力を一二〇パーセントつぎ込みました。自信を持ってお勧めいたします。


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