『詐欺師は天使の顔をして』は幸運な小説だ。何故なら『自分の理想の小説』に求めるものが詰まった小説だからである。その意味でこの小説は、私がずっと読みたかったものなのかもしれない。
『詐欺師は天使の顔をして』の構成要素を大まかに三つに分けると〝特殊設定ミステリー〟〝手品〟〝のっぴきならない関係〟だ。これらは全て、私の大好きなものである。このことについて、順を追って語りたい。
特殊設定ミステリー。名の通り特殊な設定下でロジカルなミステリーをやる作品のことである。たとえば西澤保彦先生の『人格転移の殺人』では、登場人物の人格が次々と入れ替わる状況で、山口雅也先生の『生ける屍の死』では死者が蘇る世界で本格ミステリーが繰り広げられる。
他にもお伽話を下敷きに展開される森川智喜先生の「名探偵三途川理」シリーズ、死者の証言が名探偵の弾劾裁判を搔き乱す阿津川辰海先生の『名探偵は噓をつかない』、本が禁止された世界を舞台にした北山猛邦先生の『オルゴーリェンヌ』など特殊設定ミステリーには名作が溢れている。これらを列挙した時点でお気づきかと思うが、特殊設定ミステリーはこの前提――特殊な状況の時点で既に物語的に面白いのだ! そういうわけで、特殊設定ミステリーというのは、私にとって最も贅沢なミステリーなのである。死者が蘇る世界の時点で面白いのに殺人事件まで起こしてくれるなんて! と思う。だからこそ、特殊設定ミステリーというフォーマットは早い段階からあった。
次に手品。私は昔から手品を見るのが好きだった。どんな手品にもタネがあり、タネがある以上その現象はフィクションであるが、手品は現実を変えることの出来るフィクションである。タネがあろうと、観客を上手く騙しおおせている間は、カードは消えるしコインが現れるのが『現実』なのだ。それは小説に通じるものがある。本を開いている間は、名探偵も怪盗もハッピーエンドも現実なのだ。だから、是非とも手品を題材にして小説を書きたい気持ちが以前からあった。今回はその夢も叶えた形になる。
そして最後にのっぴきならない関係、である。
のっぴきならないとは「引き下がることも避けることもできない」という意味だが、これを体現しているような関係が好きだ。お前のせいで人生がメチャクチャだが、離れることももう出来ない、不在が一番場所を取る。そういう関係が好きなのだ。主人公の要は、冴昼を諦めさえすればまともに生きられるが、彼にはもうその選択肢が無い。たった一人の『特別』の所為で自縄自縛に陥るような執着が本当に好きだ。その意味で、この小説では理想の執着の形を書けたと思う。
上に挙げた要素は全て『詐欺師は天使の顔をして』に欠かせないものであり、小説の中で十二分に書けたものだと思う。だからこそ、この小説を書くことは楽しかったし、世に出せたことは幸運だった。
最後になるが、要と冴昼のキャラクターを構想してから、ずっと頭に「終わらない文化祭」という言葉があった。色々な要素が重なった関係であるが、結局のところ「一緒に居るのが一番楽しい」というのがこの二人のテーマなのかもしれない。現在この物語の続編を構想中なので、いつでも二人が一番楽しい主人公たちの、一世一代の興行を、最後まで観測して頂ければ幸いである。
- 『これはミステリではない』 竹本健治
- 『法廷遊戯』 五十嵐律人
- 『詐欺師は天使の顔をして』 斜線堂有紀
- 『希望と殺意はレールに乗って アメかぶ探偵の事件簿』 山本巧次
- 『#柚莉愛とかくれんぼ』 真下みこと
- 『ミッドナイツ』 山口雅也
- 『ネタバレ厳禁症候群 〜So signs canʼt be missed!〜』 柾木政宗
- 『絞首商會』 夕木春央
- 『創竜伝14〈月への門〉』 田中芳樹
- 『家族パズル』 黒田研二
- 『アロワナを愛した容疑者 警視庁いきもの係』 大倉崇裕
- 『貌のない貌 梓凪子の捜査報告書』 松嶋智左
- 『友達未遂』 宮西真冬
- 『線は、僕を描く』 砥上裕將
- 『千年図書館』 北山猛邦
- 『うつくしい繭』 櫻木みわ
- 『奇科学島の記憶 捕まえたもん勝ち!』 加藤元浩
- 『試験に出ないQED異聞 高田崇史短編集』 高田崇史
- 『暗殺日和はタロットで』 古川春秋
- 『オホーツク流氷殺人事件』 葵 瞬一郎
- 『レベル95少女の試練と挫折』 汀こるもの
- 『異セカイ系』 名倉 編
- 『体育会系探偵部タイタン!』 清水晴木
- 『清らかな、世界の果てで』 北里紗月
- 『人間に向いてない』 黒澤いづみ
- 『閻魔堂沙羅の推理奇譚』 木元哉多
- 『コンビニなしでは生きられない』 秋保水菓
- 『毎年、記憶を失う彼女の救いかた』 望月拓海
- 『緋紗子さんには、9つの秘密がある』 清水晴木
- 『ギキョウダイ』 嶋戸悠祐
- 『禁じられたジュリエット』 古野まほろ
- 『双蛇密室』 早坂 吝
- 『神の時空 ―京の天命―』 高田崇史
- 『溝猫長屋 祠之怪』 輪渡颯介
- 『もう一つの「バルス」―宮崎駿と『天空の城ラピュタ』の時代―』 木原浩勝
- 『未来S高校航時部レポート 新撰組EZOで戦う!』 辻 真先
- 『水の都 黄金の国』 三木笙子
- 『ホームズ四世』 新堂冬樹
- 『倒叙の四季 破られたトリック』 深水黎一郎
- 『誰も僕を裁けない』 早坂吝
- 『ペンギンを愛した容疑者 警視庁総務部動植物管理係』 大倉崇裕
- 『幸腹な百貨店』 秋川滝美
- 『その可能性はすでに考えた』 井上真偽
- 『たとえ、世界に背いても』 神谷一心
- 『深紅の断片 警防課救命チーム』 麻見和史
- 『怪盗グリフィン対ラトウィッジ機関』 法月綸太郎
- 『黒薔薇 刑事課強行犯係 神木恭子』 二上 剛
- 『かわいいだけじゃない私たちの、かわいいだけの平凡。』 最果タヒ
- 『パリ症候群 愛と殺人のレシピ』 岸田るり子
- 『無貌伝 ~奪われた顔~』『無貌伝 ~最後の物語~』 望月守宮
- 『純喫茶「一服堂」の四季』 東川篤哉
- 『都知事探偵・漆原翔太郎セシューズ・ハイ』 天祢涼
- 『蜂に魅かれた容疑者』 大倉崇裕
- 『五覚堂の殺人』 周木律
- 『未来S高校航時部レポート TERA小屋探偵団』 辻 真先
- 『渦巻く回廊の鎮魂曲(レクイエム) 霊媒探偵アーネスト』 風森章羽
- 『さいとう市立さいとう高校野球部 甲子園でエースしちゃいました』
あさのあつこ - 『鬼神伝 龍の巻』 高田崇史
- 『ただし少女はレベル99』 汀こるもの
- 『神の時空 ―鎌倉の地龍―』 高田崇史
- 『双孔堂の殺人 ~Double Torus~』 周木 律
- 『月と太陽』 瀬名秀明
- 『さくらゆき 桜井京介returns』 篠田真由美
- 『聖者の凶数 警視庁捜査一課十一係』 麻見和史
- 『硝子の探偵と消えた白バイ』 小島正樹
- 『美都(みと)で恋めぐり』 北 夏輝
- 『水晶の鼓動 警視庁捜査一課十一係』 麻見和史
- 『狼と兎のゲーム』 我孫子武丸
- 『綾辻行人殺人事件 主たちの館』 天祢涼
- 『404 Not Found』 法条 遥
- 『蔵盗み 古道具屋 皆塵堂』 輪渡颯介
- 『猫柳十一弦の失敗 探偵助手五箇条』 北山猛邦
- 『セシューズ・ハイ 議員探偵・漆原翔太郎』 天祢涼
- 『プライベートフィクション』 真梨幸子
- 『カマラとアマラの丘』 初野晴
- 『増加博士の事件簿』 二階堂黎人
- 『戦車のような彼女たち』 上遠野浩平
- 『カンナ 京都の霊前』 高田崇史
- 『魔境の女王陛下 薬師寺涼子の怪奇事件簿』 田中芳樹
- 『猫柳十一弦の後悔 不可能犯罪定数』 北山猛邦
- 『天山の巫女ソニン2 海の孔雀』 菅野雪虫
- 『さよならファントム』 黒田研二
- 『アケローンの邪神 天青国方神伝』 高里椎奈
- 『覇王の死 二階堂蘭子の帰還』 二階堂黎人
- 『空を飛ぶための三つの動機THANATOS』 汀こるもの
- 『QED 伊勢の曙光』 高田崇史
- 『闇の喇叭&真夜中の探偵』 有栖川有栖
- 『バミューダ海域の摩天楼』 柄刀一
- 『虚構推理 鋼人七瀬』 城平京
- 『メルカトルかく語りき』 麻耶雄嵩
- 『生霊の如き重るもの』 三津田信三
- 『古道具屋 皆塵堂』 輪渡颯介
- 『縛り首の塔の館 シャルル・ベルトランの事件簿』 加賀美雅之
- 『シンフォニック・ロスト』 千澤のり子
- 『ハウンド 闇の追跡者』 草下シンヤ
- 『聖地巡礼』 真梨幸子
- 『夜の欧羅巴』 井上雅彦
- 『眠り姫とバンパイア』 我孫子武丸
- 『ひなあられ』 日日日
- 『燔祭の丘 建築探偵桜井京介の事件簿』 篠田真由美
- 『小鳥を愛した 容疑者』 大倉崇裕
- 『琅邪の鬼』 丸山天寿
- 『薔薇を拒む』 近藤史恵
- 『光待つ場所へ』 辻村深月
- 『星々の夜明け フェンネル大陸 真勇伝』 高里椎奈
- 『幻人ダンテ』 三田 誠
- 『キョウカンカク』 天祢 涼
- 『プールの底に眠る』 白河三兎
- 『幻獣坐』 三雲岳斗
- 『妖精島の殺人 上・下』 山口芳宏
- 『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』 辻村深月
- 『奇蹟審問官アーサー 死蝶天国』 柄刀一
- 『残酷号事件 the cruel tale of ZANKOKU-GO』 上遠野浩平
- 『萩原重化学工業連続殺人事件』 浦賀和宏
- 『トワイライト・ミュージアム』 初野晴
- 『完全版 地獄堂霊界通信(1)』 香月日輪
- 『無貌伝~双児の子ら~』 望月守宮







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