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『アロワナを愛した容疑者 警視庁いきもの係』大倉崇裕
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あとがきのあとがき

アロワナを愛した容疑者 警視庁いきもの係

『アロワナを愛した容疑者 警視庁いきもの係』

大倉崇裕(おおくら たかひろ)

profile

1968年生まれ。京都府出身。学習院大学法学部卒業。1997年「三人目の幽霊」で第4回創元推理短編賞佳作を受賞。1998年「ツール&ストール」で第20回小説推理新人賞を受賞。『福家警部補の挨拶』は2009年、2014年に、「警視庁いきもの係」シリーズは2017年にTVドラマ化。近年はアニメ『名探偵コナン』の脚本も手がけ、2017年公開の映画『名探偵コナン から紅の恋歌』と2019年公開の映画『名探偵コナン 紺青の拳』は大ヒットとなる。

「いきもの係シリーズで福家警部補シリーズとの『クロスオーバー』をやりたいんですよ」
半ば冗談のつもりで言った一言が、編集者の尽力であれよあれよと言う間に現実となる……。

『アロワナを愛した容疑者』は私にとって、特別な作品となった。
クロスオーバーというのは、海外ドラマなどでもよく使われる手法で、二つの違う作品が文字通り交錯し、一つの物語を紡いでいくことを言う。「刑事ドラマA」という番組の主人公がまったく別番組の「刑事ドラマB」にゲスト出演し、両者が協力して事件解決に当たる――いわゆる「夢の共演」ものとでも言えば良いか。

 また場合によっては、刑事ドラマAが前編、刑事ドラマBが後編という、番組をまたいで一つの事件が解決する試みもなされているし、最近では三つ、四つの番組の主人公が一堂に会したりといった作品も制作されている。クロスオーバーもより大掛かりに進化しつつあるのだ。

 子供のころ、映画館で『マジンガーZ対デビルマン』や『グレートマジンガー対ゲッターロボ』などに熱狂した影響もあり、私は夢の共演に強い憧れを持っている。であるから、自身のキャラクターを共演させることは、一つの夢でもあり目標でもあった。

 実は、最初から狙っていたわけではないのだが、いきもの係シリーズと福家警部補シリーズは、同じ世界、同じ時間軸の物語として書いてきた。そうと判る記述を紛れこませたものも何作かある。勘の良い読者の方は、既にお気づきのようであるが……。

 いきもの係シリーズも今回で五作目。そろそろ、長年の夢であった福家警部補との共演を実現させてもいいのではないか。そんなことを思い、打ち合わせの席上で口にしたのが、冒頭の一言である。共演といっても、ただ一緒にだすだけではつまらない。物語は前後編として、いきもの係が前編、福家警部補が後編を担当、さらに掲載に当たっては、いきもの係はいつもの「メフィスト」(講談社)に、福家警部補は「ミステリーズ!」(東京創元社)に掲載と、出版社をまたいでの前後編としたい。

 無論、実現できるなんて、これっぽっちも考えていなかった。「それはちょっと……」とやんわり断られると思っていたのだが、担当編集者ははたと膝を打って「面白そうだからやりましょう」と走りだしたのである。東京創元社の福家担当者に連絡を取り、クロスオーバーの件をもちかける。創元社の担当者も快諾してくれて、あっという間に執筆のゴーサインが出た。

 実のところ、クロスオーバーをやりたいなんて言ったものの、内容についてはまったく考えていなかった。だって、まさか本当にやれるなんて思っていなかったんだもの……。

 まあ、そんなこんなもあって、出来上がったのが表題作「アロワナを愛した容疑者」である。ちなみにこのエピソードは、福家警部補シリーズの「鬼畜の檻」に続いている。

 さて、作者の無茶ぶり全開のクロスオーバーに尽力してくれた担当編集者さんも、今年の異動で別部署に行ってしまわれた。
「いきもの係、初の海外編をやりましょう!」
という無理難題を残して。

 そんな担当さんの置き土産(?)とも言うべきいきもの係の最新作「ゾウを愛した容疑者」も既に連載が始まっている。この作品を書くため、私はとある国まで取材旅行に出向き、死にそうな目に遭ってきた。それはまた、別のお話。

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