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『千年図書館』北山猛邦
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あとがきのあとがき

千年図書館

『千年図書館』

北山猛邦(きたやま たけくに)

profile

1979年、岩手県生まれ。2002年、『「クロック城」殺人事件』で第24回メフィスト賞を受賞しデビュー。著書にデビュー作より連なる「城」シリーズ、「名探偵 音野順の事件簿」シリーズ、「猫柳十一弦」シリーズ、ゲーム『ダンガンロンパ』のノベライズシリーズ、短編集『私たちが星座を盗んだ理由』などがある。

 ラストにすごいオチが待っている、なんていわれたら読者としては期待しちゃいますよね。評価のハードルも自然と上がってしまうというものです。それをわかっていて、あえて挑んだのが『千年図書館』です。とりあえずゴールはしましたが、僕の背後に並んだハードルがどれだけ倒れずに残っているかは、読者の皆さんに確認していただきたいと思います。僕は振り返らないでおきますので。

『千年図書館』は『私たちが星座を盗んだ理由』の姉妹編といえます。どちらも短編集で、どちらもオチにこだわった構成になっています。ただしいくつか異なる点もあります。

『星座』の方は、いずれのストーリーにもテーマとして主人公たちの「純真さ」があります。その「純真さ」の砕け散るさまが、そのままミステリとしてのオチに繫がるような構造になっています。ただし最後の一行にこだわるというより、そのあとにある空白に、書いていないはずの続きを思わず空想してしまうような物語を心がけました。

 一方で『千年図書館』の一連の物語に共通したテーマがあるとしたら、「奇妙な風景」といったところでしょうか。主人公たちの内面よりも、彼らの見ている風景に、いつもとは違う歪みが生じます。ちょっとだけおかしかったり、とてつもなく変だったり。主人公たちは霧の漂う幻想的な風景の中に迷い込んだような状態なのですが、物語の最後の一行でその世界に風が吹き、一気に霧が吹き払われ、今まで自分の見ていた世界の真の姿に気づく、といった構造になっています。そして願わくは、物語の中で見た世界の光景が、読者の記憶の中に残り続けて、ふとした瞬間に蘇ってくるといいな、なんて思ったりもします。そういう意味でも、視覚的に強烈な印象を残すような物語になっています。

 それからこれは『千年図書館』も『星座』も共通しているのですが、オチについて必要以上に説明しないパターンがちらほらとあります。場合によっては最後の一行にたどり着いても、首を傾げて「なんだこりゃ」と思うんじゃないでしょうか。でもそれは間違いではなくて、実際に調べてみないとなんのことかよくわからないようなオチも確かにあります。別に意地悪しているつもりはなくて、そうして直面した「謎」について、誰かに聞いたり、逆に誰かに教えたり、あるいは手っ取り早く検索窓にキーワードを入力したり、とにかく能動的に物語を読んでもらいたくて、そのような形をとっています。意地悪ではないにしても、わがままではあるかもしれませんね。

 元来、推理小説の古風な楽しみ方として、解決編の手前で本を一度伏せて、登場人物たちと一緒に犯人を考えるというのがありますが、そうしている間、読者はその作品世界にどっぷりと浸かっているといえると思います。僕が作者として望んでいるのは、そんなふうに物語に浸って、楽しんでもらうことです。

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