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『綾辻行人殺人事件 主たちの館』 天祢涼|あとがきのあとがき|webメフィスト
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あとがきのあとがき

『綾辻行人殺人事件 主たちの館』

天祢涼 (あまねりょう)

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2010年に『キョウカンカク』で第43回メフィスト賞を受賞しデビュー。同作を全面改稿した文庫版『キョウカンカク 美しき夜に』が7月に発売。
現在、『セシューズ・ハイ2(仮)』を構想中。

 お客さんが探偵となり、舞台で演じられた事件を解決すべく一晩中捜査に奔走する、高級ホテルに泊まっているのに眠れないイベント「ミステリーナイト」。本書は、その25周年記念本である。昨年開催された「綾辻行人殺人事件『主たちの館』」のノベライズ、イベントレポート、綾辻行人さんへのインタビュー、綾辻さんと有栖川有栖さんの対談、ミステリーナイト主催者・城島和加乃さん&かとうだいさんの対談など、盛りだくさんの内容だ。

 私が担当したのはノベライズ。イベント版から、ロジックや物証を大幅に改変している。

 思いのほか時間がかかる作業だった。

 イベントをそのまま小説にできるわけがないから当然と云えば当然だが、ミステリー小説とミステリーナイトとの「姿勢の違い」に戸惑ったことも大きい。

 ミステリー小説は、予想の斜め上を行く展開で、最終的には読者を裏切らなくてはならない(と思う)。でないと「真相がわかった」と勝ち誇られ、作者は、みっともなく地団駄を踏んで悔しがることになる。

 一方、ミステリーナイトは、予想の範囲ぎりぎりで展開をとどめ、決して参加者を裏切らない。参加者は「真相がわかった」という達成感を、主催者やほかの参加者とともに分かち合う。

 換言すると「ミステリー小説は驚いてもらうことを、ミステリーナイトは解いてもらうことを重視している」となる。

 もちろん、どちらがいい・悪いなどと優劣をつける話ではない。「ミステリーというオモチャで、いかに遊んでもらうか」の姿勢の違いだ。

 本書では、その姿勢について、ミステリー界の第一人者達がそれぞれの立場から思いを語っている。結果、記念本としてだけでなく、ミステリー論としても楽しめる一冊となった。これが「発売後五日で重版」という、この種の本では異例の売れ行きにつながった一因ではないだろうか。

 なお天祢涼は、読者に勝ち誇られると、みっともなく地団駄を踏んで悔しがる作家の典型である。そのためノベライズにあたっては、ミステリーナイトの姿勢を尊重しつつも、読者の予想の斜め上を行くべく、オリジナルの仕掛けを盛り込んだ。綾辻ファンならきっと喜んでくれるであろうこの仕掛け、どのようなものかは、あなたの目で確かめてほしい。



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