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『古道具屋 皆塵堂』 輪渡颯介|あとがきのあとがき|webメフィスト
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あとがきのあとがき

『古道具屋 皆塵堂』

輪渡颯介 (わたりそうすけ)

profile

‘72年東京生まれ。‘08年『掘割で笑う女 浪人左門あやかし指南』でメフィスト賞を受賞しデビュー。独特のユーモアあふれる時代ミステリーの新鋭。

 世の中には「中古品は嫌だ、絶対に新品を買う」という方もいらっしゃいますが、そんな贅沢はお天道様が許しても懐具合が許さない私自身の体験から。

 古本屋で買ったミステリ小説に落書きを発見。何と登場人物の一人に線が引かれ、余白まで伸びた矢印の先には「犯人はこいつ」の文字が。まだ読み始めの十ページくらいのことで、あまりの腹立たしさに子供のように手足をばたばたさせて転げ回ってしまいました。しかも、それでもせっかく買ったのだからと泣く泣く最後まで読み進めると、驚いたことにそいつは犯人でも何でもなく、むしろ良い奴だったという結末。作者に騙されるならまだしも、まさか前の持ち主にまで翻弄されるとは。これは落書きを装った新手のミスリードなのではと疑ってもみましたがそんな筈はずもなく、口から魂が抜けるんじゃないかってくらい茫然としてしまいました。

 古本に限らず、中古品で失敗した経験を持つ方は多いのではないでしょうか。大抵は壊れていたとか汚れや傷があったという程度の話でしょうが、もしかすると過去に何らかの因縁がある、いわゆる「曰く品」を掴まされて恐ろしい目に遭った、という気の毒な方もいらっしゃるかもしれません。

 さて、今回書きましたのは古道具屋の話です。江戸の片隅にひっそりと構えている汚い道具屋で、潰れた商家や一家離散した家から売り物を安く引き取ってくる。中には死人の出た所から持ってきた、なんて品物もある訳で、そうなると「曰く品」も混ざってきます。その店へ不幸にも幽霊が見えてしまう体質の男が働きに来て……。

 つまり、怪談です。

 五つの話があり、当然古道具にまつわる因縁話が中心です。扱っているのは簪や櫛、箪笥などですが、チャンバラ好きな私は刀の話もきっちり押し込みました。怪談というのは綺麗にまとまり過ぎても、逆に奇抜過ぎても肝心の怖さが薄れてしまうもので、それぞれの話をまとめるのに苦労をしました。その甲斐あって読者の方々に満足頂けるものに仕上がったと自負しています。お手に取って頂ければ幸いです。ほんの少しですが猫も出てきますので、猫好きの方もどうぞ。悲しいことに私はアレルギー持ちで動物を飼えませんが、たまにペットショップでガラス越しに眺めては一人にやけています。仔猫や仔犬に無用のストレスを与えていなければいいのですが。



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