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『眠り姫とバンパイア』 我孫子武丸|あとがきのあとがき|webメフィスト
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あとがきのあとがき

『眠り姫とバンパイア』

我孫子武丸 (あびこたけまる)

profile

1962年、兵庫県生まれ。京都大学文学部哲学科中退。在学中は京都大学推理小説研究会に所属。’89年、『8の殺人』でデビュー。著書に『殺戮にいたる病』『さよならのためだけに』など。ゲームのシナリオなども手がける。

 多くの方がご存じのように、この「ミステリーランド」のシリーズは、講談社文三の名物編集者、宇山秀雄氏が立ち上げた企画である。宇山さんといえば「新本格」の生みの親でもあり、もちろんぼくもデビュー以来お世話になっている。

 宇山さんは、同じミステリーランドの『びっくり館の殺人』(綾辻行人)と『怪盗グリフィン、絶体絶命』(法月綸太郎)の二冊が同時に刊行された際、二人に見本を渡すため京都に訪れた。二〇〇六年初頭のことだ。ぼくも、小野不由美さん(すでに『くらのかみ』を刊行)、麻耶雄嵩くん(すでに『神様ゲーム』を刊行)と共に会食に参加した。つまり、その場にいた作家で、引き受けているにもかかわらずまだミステリーランドに書いていないのはぼくだけ、という状態だったわけだ。元々ぼくはラインナップでも後ろの方に予定されていたので、この時点ではさほど肩身が狭かったわけでもないけれど、数ヵ月以内には必ず書きますからみたいな雰囲気にはなっていたような気がする。

 ところが、核となるアイデアはあったものの、考えても考えても一向に形にならず、他の仕事に追われていたこともあって、一行も書きだせないでいるうち、宇山さんはその夏、突然に亡くなってしまった。結局あの時の会食が、宇山さんに会った最後だった。

 その後、担当編集から催促があるたびに「もうすぐやります」と言い続けただけではなく、宇山さんの一周忌や三回忌などで宇山夫人に会うと「今年こそ書きます」と毎年約束してきたものだ。自分にプレッシャーをかける意味もあるのだけど、結果的にはみんなにウソをつき続けたわけだ。

 とうとう原稿をあげないまま異動していった編集さん、叱咤激励し続けてくれた綾辻さん、小野さん、そして宇山慶子さん、こんなに遅くなって申し訳ありませんでした。

 しかしまあ、何とかかんとか書き終えることができた。大人向けなら長編とも呼べない長さのこの原稿だが、普通の長編以上に苦しめられた。それだけに、読者の反応が気になるところなのだが、残念ながら一番読んでもらいたい人にはもう読んでもらえないのだった。


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