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『琅邪の鬼』 丸山天寿|あとがきのあとがき|webメフィスト
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あとがきのあとがき

『琅邪の鬼』

丸山天寿 (まるやまてんじゅ)

profile

長崎県生まれ。福岡県北九州市在住。ライフワークの邪馬台国研究から着想した本作で第44回メフィスト賞を受賞しデビュー。現在シリーズ第二作執筆中。

 初めまして。『琅邪の鬼』を書いた丸山天寿です。

 五十五歳という遅いデビューですが、「今まで何をしていたの?」と良く聞かれます。何もしていません。文筆活動どころか、もっぱら読む専門でした。実は私の生業は古本屋なのです。と言ってもあまり流行っていない、小さな個人商店ですが。

 古本屋を生業にした理由は二つあります。一つは少ない資本で開業出来る事。昔は古本屋の看板をあげると、本好きな方が大量に売りに来てくれたのです。私の小さな店の棚は、一ひと月つきもしないうちに一杯になりました。

 二つ目の理由は、もちろん本が大好きな事です。買い取ったこの本は全部読み放題だ、と思うと嬉しくてなりません。世の中に数ある商売の中で、店主が商品に手を出して良い唯一の商売が古本屋なのです。読んだ後は棚に戻しておけば、また売る事が出来るのですから。

 但し当店は、京極堂さんのような難しい本は置いてありません。コミックと歴史小説、ミステリー等の娯楽本が中心です。買い取った本は片端から、楽しみました。面白そうな本は、言葉のあやではなく目が悪くなるまで、ひたすら目を通しました。

 ところが、その不摂生が祟って闘病生活をする事になり、リハビリも兼ねて「自分も小説を書いてやろう」と思い立ちました。自分の趣味である、古代日本や古代中国を舞台にしたミステリーはあまり発表されていないのではないか。これは狙い目かも知れないと。幸い資料は、集めています。古本屋は便利です。必要な資料は同業者から入手する事も可能です。

 しかし、鼻歌混じりに始めた執筆は、たちまち行き詰りました。「読むと書くとは大違い」だったのです。当時の庶民生活の資料は意外に少ない上に、史実と物語の辻褄を合せ、読者に面白く分りやすく伝える事の何という難しさ。今まで悪口を言いながら読んで来た諸先輩方御免なさい、と反省しながら何度も書き直しました。

 悪戦苦闘、七転八倒の末にようやく書きあげた処女作には、言葉では語りつくせない思い入れがあります。登場する一人一人の人物が身近に現れそうです。

 古代中国が舞台ですが、難しい物語ではありません。ミステリーや活劇としてはもちろん、史実と虚構の危うい融合を楽しんで頂ければ幸いです。



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