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『萩原重化学工業連続殺人事件』浦賀和宏|あとがきのあとがき|webメフィスト
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あとがきのあとがき

『萩原重化学工業連続殺人事件』

浦賀和宏 (うらがかずひろ)

profile

1998年、「記憶の果て」で第5回メフィスト賞を受賞しデビュー。代表作に「松浦純菜&八木剛士シリーズ」がある。

 よく、お前は何で自分の作風を確立しないでフラフラといろんな小説を書くんだ、と訊かれますが、それは僕の創作活動に深い影響を与えたYMOと坂本龍一のせいだと答えてお茶を濁しています。

 YMOは『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』で一躍有名になりましたが、同じことをやり続けるのを潔ぎ良しとせず『BGM』と『テクノデリック』という当時としては前衛的なアルバムを発表し、一般のファンを駆逐し、売り上げを落としつつも、コアなファンを獲得することに成功しました。しかしYMOはその後『浮気なぼくら』という当時の歌謡曲を踏襲したアルバムを出し、そのコアなファンまで駆逐してしまいました。

 坂本龍一も売れセンから外れた『アウト・オブ・ノイズ』のようなブライアン・イーノ的なアルバムを出してしまう。でもそういう尖った所が坂本龍一というアーティストの魅力な訳です。『ウラBTTB』みたいなシングルを出し続ければ、きっと坂本龍一もジャンルは違えど、例えばエンヤのように一般の人々も手に取りやすい、所謂「癒し」の「売れる」アーティストになったでしょうが、そういう坂本龍一を僕らファンが望んでいるかと問われれば、やはりそれは違うと思うのです。

 YMOが現在においても熱狂的なファンを囲い込んでいられるのは、間違いなく『BGM』と『テクノデリック』という時代の流れに風化されない、テクノ史に燦然と輝く二枚のアルバムを発表したからです。「安藤シリーズ」が『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』だとしたら、昨年完結した「松浦純菜シリーズ」は『BGM』と『テクノデリック』と言った所でしょうか。従って今回の『萩原重化学工業連続殺人事件』は、老若男女誰もが聴いても楽しめる『浮気なぼくら』という位置付けに他なりません。一応「安藤シリーズ・シーズン2」という位置付けですが、歌謡曲のように誰が読んでも楽しめるように書いたので、前シリーズを読んでいなくてもまったく問題ありません。

 シーズン2は暫く続く予定ですが、その後のプランは実はまったく立っていません。YMOはそのまま散開してしまったからです。浦賀和宏という作家も散開してしまうのでしょうか。その方が何となく綺麗な感じもするのですが。

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