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南柯の夢 鬼籍通覧

『南柯の夢 鬼籍通覧』

『南柯の夢 鬼籍通覧』
著者:椹野道流
定価:本体880円(税別)
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法医学教室の白い解剖台に横たえられていたのは、セーラー服を着た美しい少女だった
少女は浴室で手首を切り、死亡。
発見時、彼女の傍らには、親友である美少女が寄り添っていた。
翌日、伊月は蔵の片づけを手伝いに行き、「即身仏」と思われる古いミイラ状の遺体を発見する。
死を通して生を語る、法医学教室ミステリーの傑作!

著者コメント

久しぶりに「鬼籍通覧」新刊をお届けします!
相変わらずの面々が、真面目に働き、真剣に悩み、思いきり食べております。
精緻なトリックなどなく、驚天動地な事件も起こりませんが、働く大人のどこか
奇妙な日常をお楽しみいただけましたら幸いです。

profile

椹野道流(ふしの・みちる)

2月25日 生まれ。四緑木星・魚座のO型。兵庫県出身。元監察医。法医学教室に籍を置き、医療系専門学校で非常勤講師を務める。猫とイモリと文鳥の母。
「奇談シリーズ」(講談社X文庫ホワイトハート)のほか、「最後の晩ごはんシリーズ」、「ローウェル骨董店の事件簿シリーズ」(角川文庫)、「メス花シリーズ」(シャレード文庫)ほか人気シリーズ多数。

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特別書き下ろし ホットケーキ再び~飯作る人々~

 「え、こないだのホットケーキですか?」
 面長の顔じゅうでキョトンとしてみせる筧に、ミチルは頷いた。
 「うん、筧君が焼いてくれたホットケーキ、凄く美味しかったから、生地の作り方を教わりたいなーと思って」
 もうすっかり筧家の準レギュラーと化したミチルは、今夜も筧と伊月の家で夕食を共にしていた。
 ひとりで食事をしてもつまらないというミチルの気持ちはよくわかるし、三人でやれば支度もすぐ済むし、何より食費を三等分すると安く上がるので、三人共にとっていいことずくめの「共同炊事」なのである。
 三人が囲む卓袱台の上には、ソーセージとあり合わせの野菜を炒めたもの、厚揚げを焼いて刻み葱を載せポン酢をかけたもの、茄子の揚げ浸し、サッと炙った小さなのどぐろの味醂干しなど、何の変哲もない料理が並んでいる。
 卓の傍らには、茹で鶏を裂いたものをトッピングしたキャットフードをカリカリといい音を立てて食べる筧家の姫君、ししゃもの姿もある。
 何とも奇妙な疑似家族の今夜の話題は、ホットケーキになるようだ。
 伊月は、野菜炒めにマヨネーズをたっぷりかけ、醤油を慎重に垂らしながら言った。
 「ホットケーキなんて、作り方をわざわざ教わらなくても、筧にここで焼いてもらえばいいのに」
 ミチルは、ししゃものための鶏肉を茹でたスープで作った落とし卵の味噌汁の味を確かめながら、さらりと答えた。
 「だってそれじゃ、龍村君が食べられないじゃない」
 厳しい「神戸の師匠」の名を聞くなり、伊月の背中は条件反射のように伸びる。
 「なんでそこで、龍村先生が出てくるんすか?」
 そんな伊月の無意識の反応を面白そうに見ながら、ミチルは答えた。
 「ほら、龍村君って、実家が和菓子屋さんでしょ? おうちでは洋菓子禁止だったんですって。だから、ホットケーキなんて論外で、どうしても食べたいって言ったら、代わりにどら焼きを渡されたそうよ」
 「どら焼き! 似合わねえ。いや、似合うかむしろ。未来から来た猫型ロボット的な意味で」
 不満げな顔でどら焼きをかじる少年時代の龍村をうっかり想像して、伊月は容赦なく噴き出した。
 筧は、茶碗を持ったまま気の毒そうに口を開く。
 「ああ、なるほど。どら焼きも皮はホットケーキに似てますけど、何やちょっとニュアンス違いますよね」
 「そうそう。だから、お店でホットケーキを食べたことはあっても、おうちのホットケーキは未体験なんですって。筧君のホットケーキのことを話したら凄く羨ましがってたから、今度、監察医務室に助っ人に行くとき、焼いてあげようと思ってるの」
 伊月は目を丸くした。
 「監察医務室って、あの控え室にある簡易キッチンで?」
 ミチルは平然と頷く。
 「そうよ。ホットプレートがあるのは知ってるし、ボウルはお鍋で代用できるでしょうし、おたまはあるし……あとはフライ返しと泡立て器と食材を持参すれば、わりと簡単じゃないかと思うんだけど、どう?」
 期待の眼差しを向けられ、筧はようやく得心して、笑顔で頷いた。
 「いけると思いますよ。そない難しくないですし。食後、やってみましょか。焼けた奴は、明日チンして朝飯にしたらええですし」
 「やった! ほら、私のおかげで、明日の朝ごはんにホットケーキが食べられるわよ」
 得意げなミチルに、伊月は迷惑そうに言い返した。
 「俺は朝飯なんか食えません。土曜のおやつかな。いや、それよか今夜のデザート……」
 「あかん。タカちゃんの分は冷凍しといたるから、ちゃんとご飯食べ。デザートにホットケーキ食えるほど胃袋に空きがあるなんて、僕が許さへんで!」
 いつもは温厚な筧の母親じみた小言がやけにおかしくて、ミチルはクスクス笑いながら、出汁が浸みてとろりとした揚げ茄子を頬張った……。

筧君のホットケーキ(だいたい3枚分)

  • ①薄力粉150g(だいたいカップ1.5)とベーキングパウダー小さじ1.5を混ぜて篩っておきます。
  • ②ボールに、砂糖大さじ3、卵1個、サラダ油大さじ1を入れて泡立て器ですり混ぜ、ペースト状になったら、牛乳130mlを加えてさらに混ぜます。牛乳の量がなかなか微妙ですが、これより多いと薄いホットケーキ、少しだけ減らすと厚めのホットケーキが焼き上がります。
  • ③そこに①の粉を一気に加え、粉っぽさがなくなるまで混ぜたら、生地は完成! 時間が経つと膨らみが悪くなるので、すぐ焼いてしまいましょう。
  • ④ホットプレートやフッ素樹脂加工のフライパンならそのまま、そうでないフライパンならごく薄くサラダ油を引いて、生地をおたま1杯、少し高い位置から垂らすようにして入れます。そうすると、綺麗な円形に生地が広がります。
  • ⑤弱火を保ち、だいたい3分くらいで、表面にできた気泡がブツブツの穴に変わってきたら、慎重に裏返します。2分ほど待って、生地がふわっと膨れ、いい焼き色がついたら完成です。
    おうちならではの贅沢で、気前よくバターとシロップを添えて召し上がれ!
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担当コメント

 人が死にます。その死に謎があります。不可解な死体があります。その死体がどうしてできたのかを探ります。しかし推理小説ではありません。犯罪小説とも違います。現在も解剖学と法医学を教えている椹野道流さんだからこそ書ける、死を通して生を語る物語です。
 もちろん椹野作品の魅力である「おいしいもの」は、このシリーズにも健在です。
 食べることは生きること。家でつくる簡単で美味しい食事は、今回もたいへん魅力的です。原稿が届くと、うれしくてすぐに読み始めてしまうのですが、うっかりお腹が空いているときに読んでしまうと登場する食べ物への希求がやまなくなります。今回は、まずホットケーキを食べたい病気にかかりました。
 みなさまもどうか空腹時には、お読みになりませんように。
 夜中にホットケーキが食べたくなった時は、「特別書きおろし」を参考に是非つくってみてください。

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