『うつくしい繭』
著:櫻木みわ
定価:本体1,600円(税別)
Q: | 記憶に残っている一番古い物語はなんですか? |
A: | 父が作ったこわいはなし、三つのときにみたこわい夢。 |
Q: | 自分で読むようになって最初に大切にした本はありますか? |
A: | オトフリート・プロイスラーの『小さい魔女』をどこに行くにも持って行き、くりかえし読んでいました。基本的にすべての本を大切にしていましたが、外で読みふけっていたときに知らない男性にからだをさわられた本は、その出来事がショックだったために、不吉に思って公園のベンチに棄てました。本を捨てたことにかなしみと罪悪感を持ち、本の様子(すこしずつページがかわき、ざらつき、めくれていく)をまいにち見に行きました。それは九つの春で、エーリッヒ・ケストナーの『飛ぶ教室』。本を捨てたのは、人生のなかでそのときだけだと思います。 |
Q: | 小学生の時に好きだった本、作家さんを教えてください。 |
A: | 1、2年生『小さい魔女』(オトフリート・プロイスラー)、『おちゃめなふたご』シリーズ(イーニッド・ブライトン)、『ちいさいモモちゃん』シリーズ(松谷みよ子)。 |
Q: | 中学生の時に好きだった本、作家さんを教えてください。 |
A: | 筒井康隆、林真理子、宮本輝、村上龍、山田詠美など、日本の現代作家たちに夢中になりました。現代詩も好きで、ノートに書き写していました。 |
Q: | 高校生の時に好きだった本、作家さんを教えてください。 |
A: | 上記に、村上春樹と沢木耕太郎が加わりました。 |
Q: | 大学生の時に好きだった本、作家さんを教えてください。 |
A: | 大江健三郎、高橋源一郎、多和田葉子、原 民喜、マルグリット・デュラス、ミラン・クンデラらのほか、大平健など精神科医の書いた本や、須賀敦子、森茉莉、米原万里などの随筆、それから短歌をすきになりました。 |
Q: | どんなジャンルの本が好きですか? |
A: | 小説、評論、画集、写真集、歌集、書簡集、随筆、料理本など、ジャンルを問わずに惹きつけられる本があり、くりかえしみるほうです。雑誌もだいすきです。 |
Q: | 自分の人生を変えた本はありますか? |
A: | タイ南部の村を旅行していたときに読んでいたサマセット・モーム『月と六ペンス』の一行に打たれ、タイに住むことを決めました。 |
Q: | どんなところで育ちましたか? |
A: | 小学校低学年までは福岡の小さな町の山のふもとに住んでいましたが、10歳のときに、「もっと自然のなかで育てたい」という親の希望で、山のなかに引っ越しました。修験道で有名な観光地で、学校も全校生徒30人だけ。祭りの日には10歳から12歳の女の子が、山の上の神宮で巫女や踊り子をすることになっていて、それが自分の初めてのアルバイトでした。 |
Q: | 今作の一編目に収録されている「苦い花と甘い花」では、子どもたちが生き生きと描かれていました。櫻木さんは小さい頃、どんな子どもでしたか? |
A: | まわりやひとのことをいつも不思議に感じ、知りたいと思っていました。自分のことをわるい意味でへんだと感じ、そうでなくなりたいと思っていた。学校の先生など大人の言動をよくみていて、この人は正しくないとか信頼できないとか感じたことも覚えているので、自分がどこかで子どもと接するときには気をつけています。 |
Q: | 小さい頃なりたかった仕事はなんですか? |
A: | 保育園のころは魔女になりたいと考え、魔女になる道をまじめに調査・模索していましたが、この子はきっと魔女だと信じて師事していた子が、実はそうではなかったことを知り、あきらめました(その子はいま、医者になっています)。小学1年生のときの自分の日記には、「さくしゃになります」と書いてありました。 |
Q: | 小説家を目指したのはいつですか? 何かきっかけはありましたか? |
A: | 子どものときに、本を読んで。 |
Q: | 職業として小説家を目指したのはいつですか? |
A: | 具体的に考えたのは中学のときでしたが、自分にはまだ書けない、いろいろな経験をしなければ、と思っていました。 |
Q: | 初めて人に見せた創作物はどんなタイトルで、どんな内容でしたか? |
A: | 小学校2年生のときに、日記帳にクラスの子35人全員が出てくる長いお話を書き、担任の先生がそれをクラスの出し物にしたいといってくださって、皆で実演発表をするという幸福な体験がありました。小説を書いたのはそのずっとあとで、大学最後の年でした。タイトルは「赤い花」、炭坑町に暮らす少女の話で、授業の課題として提出しました。作家で教授だった宮内勝典(かつすけ)さんが、「構造がめちゃくちゃで、小説になっていない。だけどこのひとは、ここにいる大勢のひとたちのなかで唯一、小説家にならないとしあわせになれない。これはそういう文章です」といわれ、自分はその言葉に強い印象を受け、この年まで来てしまった。 |
Q: | 創作のネタ、モチーフはどうやって見つけていますか? |
A: | 誰かの問わず語りや旅先でみた風景、外国の小説など、すこし遠くにあるものからイメージがひろがって、自分のなかの記憶や感情、問題意識と結びついて、お話ができるように思います。 |
Q: | 執筆場所は決まっていますか? |
A: | 家が多いですが、外のときもあります。うるさくなく、コーヒーがあったらどこでも書けると思います。 |
Q: | 執筆時間はいつですか? |
A: | しめきり前です。 |
Q: | 登場人物にモデルはいますか? |
A: | いる場合もいない場合も、自分の要素がばらばらに入っているときもあります。 |
Q: | 執筆時のお気に入りのアイテムを教えてください。 |
A: | コーヒー、または書いているお話にまつわる食べものや飲みものです。 |
Q: | 創作のために意識して取り入れる情報やエンタメはありますか? |
A: | 皆さんに教えてもらうようこころがけています。 |
Q: | デビューするまではどんなお仕事をされていましたか? |
A: | 海外では日本語情報誌の編集、日本では契約社員として新聞社で編集補佐や校閲の仕事などです。 |
Q: | 「ゲンロン 大森望 SF創作講座」に応募しようとしたきっかけはなんですか? |
A: | 東浩紀さんに計画を聞いて。 |
Q: | そもそもSFに興味はありましたか? |
A: | 皆無でした! |
Q: | 講座でとくにためになったのはどんな内容でしたか? |
A: | エンタメ小説の作り方を学んだことと、自分の長所と短所を知ったことです。 |
Q: | デビュー作を書くのにどれくらいの時間がかかりましたか? |
A: | 講座の提出作(と同人誌の掲載作)なので、それぞれ2週間くらいで書きましたが、『うつくしい繭』の推敲は、私生活の激変による精神的疲弊もあり、1年半くらいかかってしまいました。 |
Q: | 改稿時にはどんな部分を直しましたか? |
A: | 担当編集の方を筆頭に、信頼する読み手に不足を指摘していただいた箇所です。 |
Q: | 現在とくに好きな作家さん、会いたい作家さんはいますか? |
A: | 上記で既に名前をあげた方たち以外では、アンソニー・ドーアさん、チママンダ・アディーチェさん、磯﨑憲一郎さん、上田岳弘さん、江國香織さん、小山田浩子さん、金原ひとみさん、川上未映子さん、車谷長吉さん、平野啓一郎さん、古井由吉さん、舞城王太郎さん、宮内悠介さん、SF創作講座で一緒だった高木刑さん、高橋文樹さん、麦原遼(むぎはら・はるか)さん、ほかにも本当にたくさんいますが、ずっとすきで尊敬している作家は大江健三郎さんです。 会いたいのは、大江健三郎さん、アンソニー・ドーアさん、ミラン・クンデラさん、ソフィ・カルさん(ソフィさんは小説家ではありませんが、とても小説的な作品だと思うから)です。また、恩師の宮内勝典(かつすけ)さんやSF創作講座をきっかけにその作品を知って魅了された飛浩隆(とび・ひろたか)さんと小川哲さんは、すきな作家であると同時に、会うたびにこころがひろがり、教えてもらうことが多いので、何度でも会いたいです。 |
Q: | 今いちばん行きたい国はどこですか? |
A: | フィンランド、チェコ、タイ、ロシア、アメリカやイギリスなどです。 |
Q: | 『うつくしい繭』では料理の描写が魅力的ですが、お好きな料理は? |
A: | 旬のもの、その土地のものをつかって、きちんと作られたお料理だったらば何でもだいすきです。興味があるのは発酵食品、生もの、郷土料理です。きれいだと思う加工品はバターと和菓子、いつか食べてみたいものはすっぽん、白子鍋、海でとったばかりの牡蠣と雲丹です。 |
Q: | 2作目、3作目はどんなものを書いていきたいですか? |
A: | これはすぐにではありませんが、さまざまな国の異なるひとびと(日本の女子中学生、ジョージアの独居老人、ブラジルのカリスマモデル、どこかのVTuberなど)が、あるひとつの物や出来事をめぐって(時にその祖父母の歴史も含めて)交差する物語を書いてみたいです。 2作目は、書きたいことが決まっていて、編集者の方に相談中ですが、(おそらくまだ書かれたことのない)閉ざされた世界のことなので、取材がむずかしいかもしれません。 |
Q: | エッセイなどを書きたいという気持ちはありますか? |
A: | 依頼をいただいたら全力で書くと思います。 |
Q: | 今後どんな作品を書いていきたいでしょうか? |
A: | 原民喜『夏の花』、サン=テグジュペリ『人間の土地』、チョ・セヒ『こびとが打ち上げた小さなボール』、ずっと大切にこころに残ってゆくこれらの作品のようなものをいつか書くことができたなら、どんなにしあわせなことかと思います。 |