『無傷姫事件 injustice of
innocent princess』
著者:上遠野浩平
定価:本体1,000円(税別)
これは……「事件」だっ!
ミレニアムに沸く2000年初夏。講談社ノベルスに、とんでもない作品が誕生した。「ブギーポップ」シリーズで人気を博した上遠野浩平さんが紡ぐ、新たなるサーガの第一巻。ミステリーとファンタジーが究極のレベルで融合した物語、そう、『殺竜事件』だ。あれから16年。『紫骸城事件』『海賊島事件』『禁涙境事件』『残酷号事件』と描かれてきた壮大な世界が、今、再び動き出す。
究極の武装とは何か――。大国に挟まれた弱小国家で、無敗の姫達はいかにして、国を、人々を守ったのか。歴史の狭間で輝き、滅した姫達の幻想と謎の物語に、刮目せよ!
そして、翌月。シリーズと背中合わせの世界を描く短編集、『彼方に竜がいるならば』がついに刊行! 竜が、城が、海賊が、次元を超えて及ぼした物語とは!?
獅子猿 (ししざる)
重厚かつ繊細な画風で人気を博すイラストレーター。
数多くの書籍装画・ゲーム、カードのキャラクターデザインなどを手がける。
小説を書く際によくある話として「キャラが勝手に動いていく」みたいなことがあるが、今回の『無傷姫事件』ではそんなレベルではなく、なんというか――「お姫様たちに会いに行く」という感じだった。いやもちろんファンタジーであり、完全なフィクションであり、特定のモデルとかもいない小説なのである。それでも作者は四人の無傷姫たちを自分で考え出したという気がせず、それどころか書きながら「どうしてこんなことを言うんですか?」と彼女たちの発言に驚き続けていた。これではインタビューである。しかしこの作品は設定上、時間が七十年以上も経過してしまうので、取材で書くことはほぼ不可能であるから、そういう意味では小説でなければできない作品だった。我ながら変なことを言っていると思う。しかし本音である。描きたかったことがあり、構想したテーマがあったはずなのだが、それらは姫様たちの生き様の前に消し飛んでしまったという印象だ。これは何作か続けている長編連作の一つではあるので、そこで創られた歴史の流れはもはや作者にも変更不能であることが、ますます姫様たちの生き方を<戦い>にしてしまった。どうにもならない運命に、ただ立ち向かうだけでは生き延びられないときに、どのように決断し、何に力を借りて、何を捨ててきたのかを、それこそ他人から話を聞くように書いていったらすっかり圧倒されてしまって、書き終わったときの感想が「……すごいですね」という、なんだか他人事みたいなものになってしまった。執筆そのものには六年ぐらいかかっているのだが、しかし作中の姫様たちの方が遥かに「色々大変だった」ので、作者はそれに比べたら「大したことねーかも」という気もしているのだった。この作品は過去を振り返る年代記で、その輪の中で閉じられた物語ではあるのだが、しかしなんとなく、常に「どこかへ向かっている」気もするのだった。読者の皆様にもそうであって欲しいと願っています。
上遠野浩平
1968年生まれ。『ブギーポップは笑わない』(電撃文庫)でデビュー。 シリーズを横断し描かれる世界は、壮大なサーガとなっている。