数年前のサイン会で、ある読者の方から「そういえば、あの人のスピンオフは書かないんですか?」と尋ねられました。私のデビュー作『冷たい校舎の時は止まる』に登場した、彼のことです。
『光待つ場所へ』は、人が階段を一段のぼる瞬間、扉を開ける瞬間が見てみたくて書いた短編集です。この機会に、ならば、と思い、彼についても書いてみました。
『校舎』からは数年後。再び、見守っていただければ幸いです。
辻村深月 Mizuki Tsujimura1980年2月29日生まれ。
千葉大学教育学部卒業。『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。
『ツナグ』で第32回吉川英治文学新人賞を受賞。
他の著作に、『凍りのくじら』『スロウハイツの神様』『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』『オーダーメイド殺人クラブ』『水底フェスタ』、近著に、『ネオカル日和』、『サクラ咲く』などがある。
新作の度に期待を大きく上回る作品を刊行し続け、幅広い読者から熱い支持を得ている。
――辻村深月の本を読む理由
やる気をもらえるから
自信をなくすような毎日だけど、
反省だらけの毎日だけど、
前へ進むしかないんです。
いつも、やる気をもらうんです。
背中を強く押してくれるんです。
それが、心地好くもあるんです。
佐伯佳美(さえき・よしみ)イラストレーター。1978年生まれ。2005年に『凍りのくじら』の装画を担当し、活動を開始する。主な作品に、辻村深月『ぼくのメジャースプーン』『スロウハイツの神様』、花村萬月『愛情』、道尾秀介『ソロモンの犬』、湊かなえ『贖罪』『Nのために』、乾ルカ『メグル』、清水マリコ『日曜日のアイスが溶けるまで』、村田沙耶香『マウス』などがある。
公式HP さえきのて http://saekinote.michikusa.jp/
『凍りのくじら』以降、私の本の装画をたびたび担当してくれている佐伯佳美ちゃんは、私の大学時代からの親友です。レポート用紙やノートに書いた小説を、当時からよく読んでもらっていました。
今回『光待つ場所へ』に収録された「しあわせのこみち」も読んでもらい、その時、彼女から素敵なイラストをもらいました。デビュー前に絵をもらえることなんてまずないからとても嬉しくて、それは今も私の宝物です。
その後、時が流れて、今回ノベルス版で彼女にまた装画をお願いできることになり、どんなものになるのかとても楽しみにしていたのですが、いただいた絵を見て息を呑みました。
階段と、それをのぼる足。
そのモチーフは、デビュー前に佐伯ちゃんからもらったあの絵と同じものでした。
だけど、まったく同じわけではなく、描かれている人の足取りも、靴も、階段の色も、格段に“今の”佐伯ちゃん色になっている。見て、やられた!と叫びました。ナイショでこんなことされたら泣いちゃうじゃないか!と。
デビュー前、小説を書きながら、どうしたら作家になれるのかもわからなくて、途方にくれつつ、それでも書くことが楽しくて仕方なかった気持ちと、その傍らで、同じように絵を描きながら「大丈夫!みづきは必ずプロになれるよ」と言ってくれていた佐伯ちゃんのことを思い出し、そう言いながらも、彼女自身だってイラストレーターになれるかどうか不安がいっぱいだったんだろうに、私を励ましてくれていたんだなぁということにまで考えがいたって、胸がぎゅっとなりました。
『光待つ場所へ』は、人が階段を一段のぼる瞬間、扉を開ける瞬間について書いた短編集です。
その表紙を、今、佐伯ちゃんのこの装画で送り出せることを、とても嬉しく感じています。
辻村深月さんの講談社ノベルス最新刊が刊行です! 『ロードムービー』と同様に、辻村さんのこれまでの世界観と繋がり、さらに世界を広げる全4編を収録しました。ノベルス版に追加収録された「アスファルト」は、『冷たい校舎の時は止まる』の、ある登場人物のその後を描いた作品です。初めて読んだとき、久しぶりに「彼」と再会できたことが嬉しくてたまりませんでした。イラストレーター・佐伯佳美さんの美しい装画にも、ぜひご注目ください! 本をひっくり返した裏面も、とても素敵なのです!
講談社ノベルス6月新刊の辻村深月さん『光待つ場所へ』の刊行を記念いたしまして、サイン会を開催いたします。
ぜひ奮ってのご参加、お待ちしております!
日時:2012年6月16日(土) 13:00〜
会場:ルミネ横浜 7F ルミネサロン
神奈川県横浜市西区高島2−16−1 ルミネ横浜
電話:有隣堂 ルミネ横浜店 045−453−0811
※サイン会詳細につきましては、有隣堂HPをご覧下さい。