世に警察小説は数多く存在しますが、「ここに推理の要素が加われば、さらにエンターテインメント性が高まるのでは」と感じることがありました。
殺人事件の捜査は聞き込みが中心となるため、一見地味な活動のように思えます。しかし事件の構造を推測する「筋読み」の段階では、高度な推理が展開されているかもしれません。そこに力点を置いて書いたら、「捜査するだけの警察官」が「推理のできる警察官」に進化するのではないか。これは非常に魅力的な着想でした。
早速、話の骨組みを決め、次に登場人物を考えていきました。警視庁捜査一課は精鋭揃いの部署ですが、中には個性的な人もいるでしょう。たとえば、体格の問題に悩みながらも全力で捜査に当たる女性刑事。飄々としてつかみどころがないけれど、じつは優れた推理力を持っている警部補──。
数ヵ月後、『石の繭 警視庁捜査一課十一係』という小説が出来上がりました。これは、彼ら捜査員たちのチームワークと、謎解きの過程を描いた警察ミステリです。
麻見和史(あさみ・かずし)
1965年千葉県生まれ。立教大学文学部卒業。2006年に『ヴェサリウスの柩』で第16回鮎川哲也賞を受賞し、デビュー。大学の解剖学教室を舞台にした医療ミステリーで注目を集める。著書に義肢装具士を主人公とした『真夜中のタランテラ』(東京創元社)がある。今後のさらなる活躍が期待されるミステリー界の気鋭。
麻見和史のイベント・シンポジウム日記
http://kaz-asami.txt-nifty.com/blog/
ここだけは誰にも負けない本作のポイントは?
警察小説の形をとりつつ、謎解きにも力を入れているところ。捜査員たちのチームワークと、推理の過程が見どころです。
今回の作品の中で一番気に入っているキャラクターは?
鷹野秀昭警部補。こういう、一見何を考えているかわからないキャラクターは今まで扱ったことがないので、楽しく書くことができました。
どんな人に読んでほしいですか?
警察小説が好きな方にはもちろんですが、「警察小説って面白いの?」という方にもぜひ。主人公を若い女性刑事にしたのは、できるだけ一般人に近い感覚で、ものを考えさせたかったからです。
捜査一課十一係の捜査員たちの、設定裏話を教えてください。
当初、如月塔子は平均的な身長でしたが、書いてみたらあまりにも普通の女性になってしまったので、思い切って背を低くしました。すると今度は、先輩たちにお嬢さん扱いされ、なんだか頼りない感じに……。そこで、彼女よりもっと突っ込みどころの多い変わり者として鷹野を設定し、バランスをとりました。
執筆時に苦労されたことはありますか?
書き続けるうち、この真相でどれぐらいの驚きが出せるか、客観的な判断ができなくなってしまったこと。自信を持て、と毎日自分に言い聞かせていました。
登場人物を勝手にドラマ化キャスティングするとしたら?
年齢、身長の設定を若干緩めると──。
塔子……倉科カナさん
鷹野……要潤さん
門脇……坂口憲二さん
徳重……中村梅雀さん
要潤さんの、とぼけた演技を見てみたい気がします。
影響を受けた作家、作品名は?
海外の作家だと『太陽の黄金の林檎』などのレイ・ブラッドベリ、『ウォッチメイカー』などのジェフリー・ディーヴァー。日本人作家なら『虚人たち』などの筒井康隆さん。
好きな映画、音楽は?
すごいと思った映画は『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』や『ソウ』ですが、好きな映画は『スティング』。音楽は執筆の邪魔にならない程度にボサノバなどを聴いています。
執筆中にかかせないアイテムは?
東京都の地図。ひとつの作品につき一枚ずつ地勢図を用意して、事件が起きた場所、聞き込みにいった場所などに印を付けます。現場の位置関係や犯人の移動経路を把握するためです。
印象深い「ヤバすぎ」犯人を教えてください(小説の登場人物でも、現実にいた犯人でも)
ジェフリー・ディーヴァー著『ボーン・コレクター』の犯人。正体を知って衝撃を受けました。描かれ方があまりに自然だったため、悪意を見抜くことができませんでした。
今後書いていきたいテーマ、もしくは次作の予定などお教えください。
警察小説を書いていきたいと思います。まずは十一係ものの続きを。そのほか、医療や各種社会問題に関する作品も構想中です。幻想的な美とリアリティーが同居し、最後には意外な事実が明らかになる。そんな作品を目指しています。
これから『石の繭 警視庁捜査一課十一係』を読む読者の方に、一言お願いします。
犯人の目的は何なのか。この物語はいったいどこに着地するのか。警察ミステリならではの結末に、ご期待ください。
<警視庁刑事部捜査第一課 十一係メンバー>
如月塔子(きさらぎ・とうこ)
巡査部長。26歳。背の低さと子どもっぽい顔ゆえ、たまに周囲から「女の子」扱いされてしまうことが悩み。刑事だった亡き父を持つ。
鷹野秀昭 (たかの・ひであき)
警部補。31歳。塔子の指導にあたる。100円ショップを巡り、アイデア商品を買い集めることが趣味。
早瀬泰之 (はやせ・やすゆき)
係長。45歳。捜査経験が豊富で部下からの信頼も厚い、十一係のリーダー。
門脇仁志 (かどわき・ひとし)
警部補。36歳。行動力に定評があるが、ときに強引な捜査を進めることもある。あだ名は「ラッセル車」。
徳重英次 (とくしげ・えいじ)
巡査部長。53歳。温厚な性格で、七福神の布袋さんのような体型。
尾留川圭介 (びるかわ・けいすけ)
巡査部長。29歳。ソフトスーツを着こなす、自称帰国子女。話好きで容姿もいいため、女性からの人気が高い。