刀城言耶(とうじょうげんや)シリーズの十冊目『魔偶の如き齎すもの』をお届けします。 言耶の学生時代の事件簿は『生霊の如き重るもの』に纏めてありますが、本書に収録した砂村家の二重殺人事件(「妖服の如き切るもの」)と富士見村の人間消失事件(「巫死の如き甦るもの」)と禁野地方の獣家事件(「獣家の如き吸うもの」)の三つは、彼の大学卒業後に起きています。凶器の有り得ない移動の謎、閉ざされた村内での人間消失の謎、増減を繰り返す家屋の謎に、言耶が挑みます。
そして社会人になって三年目、言耶は宝亀家の卍堂事件(「魔偶の如き齎すもの」)で、ついに怪想舎の編集者である祖父江偲(そふえしの)と出会います。果たして二人は、どんな遭遇の仕方をしたのか。如何にして作家と編集者の関係は始まったのか。どうか読者の皆様、楽しみにお確かめください。
ちなみに「魔偶」と同じ年に起きたのが、あの媛首村の媛首山に於ける首斬り連続殺人事件(『首無の如き祟るもの』)でした。
なお次に予定している長篇では、あまりにも忌むべき陰惨な事件に刀城言耶は巻き込まれるのですが……。このタイトルも物語も未定の作品を――動機だけが頭に浮かんでいます――はてさて無事に書き上げることができるのかどうか、厄介なことに作者の僕にも分かりません。でも乞うご期待!
ホラーミステリ作家。2001年『ホラー作家の住む家』でデビュー。(文庫版は『忌館(いかん)』と改題)。2010年。『水魑(みづち)の如き沈むもの』で第10回「本格ミステリ大賞」を受賞。2016年『のぞきめ』が映画化される。主な作品に刀城言耶シリーズ、家シリーズ、死相学探偵シリーズ、幽霊屋敷シリーズ、物理波矢多(もとろいはやた)シリーズなどがある。近著は『怪談のテープ起こし』(集英社文庫)、『黒面の狐』(文春文庫)、『白魔の塔』(文藝春秋)など。
「メフィスト」に掲載された「妖服の如き切るもの」「巫死の如き甦るもの」「獣家の如き吸うもの」に加え、書き下ろしの表題作「魔偶の如き齎すもの」を収録した中短篇集をお届けします。敗戦の空気が色濃く残った東京で、若き刀城言耶が奇妙な謎の数々に対峙します。そこでは祖父江偲との初めての出会いも描かれています。どうぞご堪能ください!