応募先にメフィスト賞を選んだ理由は? | |
締め切りがなくて、分量的にもいけそうで、応募から数ヵ月で結果が分かるというのが理由だった気がします。あと、学生時代の友人がメフィスト賞のファンでそのせいで馴染みがあって、送ってみようかなと思いました。 | |
受賞を知ったとき、最初に思ったことは? その後、まずしたことは? | |
電話をいただいて最初に言ったのは担当の編集者さんに向けた「よかったですね」だったと思います。それは、実際に一番最初に思ったことでした。メフィスト賞っぽくない作品を座談会に推していただいていたので。でも、その直後に、「受賞したのは自分だ! はっ⁉」みたいな気持ちになって、「ありがとうございます」とひたすら言っていました。受賞を聞いた瞬間に、テンパっていたのかもしれませんね。だから感謝と混乱と嬉しさ、という感じでした。その後、部屋をウロウロして、ベランダに出て小さな椅子に座りました。「生きてると、たまにはいいこともあるなあ」と思いました。晴れた暖かい日だったのでよく覚えています。 | |
受賞の知らせを聞いたのはいつ、どこで? | |
自宅で、午後だったと思います。いつも、メールをいただいてから電話がかかってくるのに、突然、電話が鳴ってビックリしました。着信が誰からか見て、瞬時に、自分が何かやらかしたのかも知れない、と妙な不安に駆られて、緊張したまま通話ボタンを押しました。 |
今作を四字熟語でたとえると? | |
一意専心? 一筆入魂? 一歩前進? 水墨画の用語的に言えば、やっぱり『気韻生動(きいんせいどう)』かなと思います。形じゃないんだよ、みたいな話なので。 | |
ここだけは誰にも負けない今作のポイントは? | |
水墨画の小説であるということだと思います。よく考えると、凄く地味な題材ですよね。でも、どこかに書いてあることではなくて、「自分がやってみて、こうじゃないか? こういうことじゃないだろうか?」と思ったことを基に書いています。自分が知っている水墨画の魅力を書き込んだことが強みだと思います。 | |
勝手に映画化のキャスティングをするとしたら? | |
20歳前後の頃の自分なら、「古前君」役がやれたのにと思い、悔しい気持ちでいっぱいです(笑)。一番親近感が湧くし、学生時代の自分に見た目も中身も近い気がします。元気でした(笑)。 | |
どんな人に読んで欲しい? | |
本当に心が疲れ果ててしまった方、何かを始めようか悩んでいる方、何かを創り出して生み出そうとしておられる方、それを学んでおられる方、青春真っただ中でこれからの自分の生き方に悩んでおられる方、ちょっと水墨画に興味があるという方、何かの講座の教室に通ってみたいなあと思ったことがある方、何かに打ち込んできた過去を持っておられる方、でも、そんなふうに著者が考えるよりも、もっともっとたくさんの方に読んでいただきたいなあと思っております。 | |
作家を志したきっかけは? | |
学生時代に小説を書いていた時期があって、「俺は才能がないなあ」と痛感して止めてしまったのですが、それから10年くらい経ったある日、知人に「書いてみたら?」と言われて、「じゃあとりあえず、笑える短いやつを1作書いてみようかな」と思って、書き出したのがきっかけです。それが短編ではなくて、長編になったのでそのまま応募しました。 | |
影響を受けた作家、作品は? | |
夏目漱石の『坊っちゃん』は好きでした。明るい作品で笑えるものはいいなあと思いました。チャールズ・ブコウスキーの『パルプ』とかも好きです。筋書きは怪しくて、ドタバタでやりたい放題でいい加減な探偵の生き様と悲哀。学生時代に読んだきりですが、小説というのは好き勝手やっていいんだという感じで背中を押された気がします。カルロス・ルイス・サフォンの『風の影』は影響を受けています。繊細で、生き生きしていて、ユーモラスで、たくさんの人達と一緒にいる話は好きです。 | |
今後チャレンジしてみたい題材、テーマは? | |
ユーモラスな話がやりたいと思います。ドタバタの喜劇とかアクションとかは好きです。ちゃんと書けるかどうかは、また別の問題ですが。自然や動物が好きなので、それがテーマになったらいいなあとも思います。 | |
最後に、読者の方々に一言! | |
『線は、僕を描く』を読んで下さって、ありがとうございます。右も左もわからないままですが、皆様のおかげで、物書きとして少しずつ成長させていただいております。 これから手に取って読んでみようかなと思っておられる皆さま、どうぞ、よろしくお願いいたします。一本の線をスパッと描くようなシンプルなお話です。 誰の人生にとっても困難な出来事はあり、壁があり、それなのに立ち上がる力をも失ってしまう時というのがあると思います。そんなとき、目に触れた自然の風景や、誰かの笑顔や、よく晴れた美しい日のように、何気なくこの本を手に取って、少しでも心を休め、静かな気持ちを感じていただければ本当に嬉しいです。本作を通してこうして皆様とこの物語を共有する機会を戴けたことを深く感謝しております。たくさんの喜びをこれからも、皆様と物語を通して共有できれば、本当に幸せなことだなあと思っております。 |
プロフィール
砥上裕將(とがみ・ひろまさ)
1984年、福岡県生まれ。水墨画家。
温厚でおだやか。お年寄りの趣味と思われがちな水墨画の魅力を、小説を通して広い世代に伝えたいという志をもって、本作品を書き上げた。ウイスキーにジャズ、そして猫を心から愛する。
満場一致の感動作 これがメフィスト賞だ!!
※応募時のタイトル
寅 | 今回の最後は『黒白の花蕾』※です。 |
巳 | 『灰色猫と結婚前夜〜地上戦〜』というネコの小説で初投稿、次が『肋骨レコードの回転』。これが3作目になります。青山君という男のコが水墨画を通して成長する。すごくシンプルなお話です。主人公の恢復(かいふく)と水墨画に関わる人々、それから水墨画自体についての物語です。「読む水墨画」というか、絵を、こういうふうに見ればいいんだなとか、こういうふうに描かれているんだなと感じさせる側面もありますし、物語として非常に清々しい。ご本人が水墨画を描く方なので非常に説得力もあるなと思っています。メフィスト賞らしくないかもしれないという点が気になりますが、ぜひ刊行をと思ってます。 |
火 | すごくよかったです。メフィスト賞なんだから誰か死ぬのかな、とか幻の水墨画とか出てくるのかな、とか思いながら読みましたが、最高の青春エンタメでしたね。 |
金 | すごい傑作です……! この2、3ヵ月読んだ全小説の中でトップクラスに面白かった。全編通して主人公の実感が描かれているんですよ。筆を持つってどういう感じなんだろう、墨をするってどう感じるんだろう、絵が描かれたときにどう感じるんだろうっていうことが徹底的に書かれてあって、これはまさに小説だからこそできることだ、と。成長物語としても素晴らしいです。『ピアノの森』や『羊と鋼の森』、最近のマンガだと『ロッキンユー!!!』とか『ブルーピリオド』とか、そういう新しいことに入っていくときの感覚って普遍的だということがわかるお話です。 |
子 | 私は最初の応募作を読みましたが、今回は全く違う作品作りに挑まれていて、それがとてもいい結果を出していると思います。素晴らしい、読む者の心に訴えかける作品です。アートと向き合って感動したその興奮、心の動きを言葉にするのはとても難しいものですが、この方はその表現が饒舌で圧巻です。感動すら覚えました。ラストに近くなってきたとき、正直「まだもっと読んでいたい!」と思ったほどです。これは文芸作品ですよね。 |
金 | メフィスト賞が本気の文芸を出すんだと言って出すんですよ。メフィスト賞って キワモノばっかじゃねえぞと。「メフィスト賞半端ないって!」、ですよ(笑)。 |
寅 | 募集要項には「エンタテインメント作品」としかないから、エンタメであれば、どんな 作品でも受賞はありなんだよね。 |
Y | 大前提として、我々は「メフィスト賞らしくない」と言うべきではないと思うんです。 メフィスト賞って昔から「面白ければ何でもあり」がルールですよね。もちろんミステリ色が強いとか、尖った作品が受賞するというのはすばらしいことですけど。この作品は、僕らが面白いと思ってるという段階で、非常にメフィスト賞らしい作品だと思って ます。つまり、めちゃくちゃ傑作だった! と言いたい(笑)。 |
土 | ほんとにそうだよね。この作品は最高です。水墨画という題材はマニアックだけど、物語の普遍的な要素は全部入っています。台詞もそうですし、心理描写もそう。トールキンが描いている、「行きて帰りし物語」の形になっている。両親が死んで心に大きな穴が空いている主人公が展示会で水墨画に出会い、水墨画を通してある種の家族ができ、物語は再び展示会という場所で閉じるという……。この作品、井上雄彦さんに読んでもらい たいよね、『バガボンド』の続きを描きたくなるかもしれないし(笑)。 |
Y | 僕もほんとにこの方のファンなので、あえて言うなら、世に出すとき、タイトルがもう ちょっと青春小説っぽいほうがいいのかしらと思ったりするぐらい。 |
戌 | 絶対出版するべきだと思います。見事な小説です。ほんとに文章が正確なことに驚きました。極めて正確だからこそ、水墨画の、まさに筆遣い、そして絵が描き上がっていく 過程が読者にありありと伝わる。凄まじい文章力だと思います。ご自身が水墨画をやってるだけあって、視線といいますか、事物のとらえ方が小説家としても武器になっていますね。お話もよくできてるなと感心しながら、全体的に清潔すぎるかなと思っていて (笑)、少し物足りなく感じる人もいるかもしれないんですが、これはこの作品の世界 として完成しているのでよけいなことはしないほうがいいでしょうね。 |
Y | 主人公たちの物語をもっと読みたい……。 |
寅 | 半端ないほど評価が高いね。メフィスト賞決定! 「これこそメフィスト賞」ということで売り出していきましょう。 |
喪失を抱いた青年が、水墨画を通して恢復する。つきつめればこの一文になる物語が、驚く ほど熱くせつなく胸に迫ります。この物語の主人公は、青山君という青年であり、水墨画と いう芸術であり、描かれる森羅万象すなわち命そのものでもあります。普遍的なテーマを 水墨画を介して青春小説に仕立てるという、企みのある作品といえるかもしれません。 今作を読むのに水墨画の知識は必要ありません。でも読了後には、見てみたくなると思い ます。とんでもない才能が、またメフィスト賞から登場です。ぜひ、ご一読ください。