美味しいものは人生のエッセンスだ。自分の舌にぴったり合う味に出会ったときの喜びは、何ものにも代えがたい。それが旅先だったとしたら、非日常性も相まって一段も二段も上の味に感じるだろう。けれど、年がら年中旅行をしているわけにもいかず、どうせなら未知の土地を訪れたいと思う人も多いだろう(私だ!)。
グルメブームの陰りは見えず、テレビや雑誌では有名店やその土地ならではの食べ物の紹介が盛んにおこなわれている。SNSを使って個人が記事にすることも多い。それらの美味しそうな映像や写真を見ては『おお、知ってる、知ってる! あれは確かに旨かった!』と膝を打ったり、『なんて美味しそうなんだ! 是非一度食べてみたい!』と涎を垂らしたりする人もいるはずだ。(これも私だ!)
本書は、主人公がツアーコンダクターだった経験を生かして郷土料理を作り、友人たちに絶賛されたことをきっかけに料理教室を開く話である。
ものすごく手の込んだ料理は扱わない。毎回参加する必要もない。レシピがあっても中途半端に余った食材は、『全部入れちゃいましょう』と放り込む。そんな肩の凝らない料理教室の日常に、郷土料理のように温かく優しい雰囲気を感じ取っていただければ幸いである。
『居酒屋ぼったくり』が大評判の秋川滝美さんの新作は、自宅での料理教室が舞台です。インテリアや食器に凝ることなく至ってカジュアルな雰囲気のなか、不定期で開催されるお気楽な教室で、42歳の万智が教えるのは鳥取の「どんどろけ飯」や三重県四日市市近辺の「トンテキ」など郷土料理。そんな教室に通う老若男女には、料理が上手になりたいこと以外にも様々な理由があり……。お腹も心も温まる、絶品料理小説の登場です!