『悪徳の輪舞曲 (ロンド)』
著者:中山七里
定価:本体1,600円(税別)
ロンド
14歳で殺人を犯した悪辣弁護士・御子柴礼司を妹・梓が30年ぶりに訪れ、母・郁美の弁護を依頼する。郁美は、再婚した夫を自殺に見せかけて殺害した容疑で逮捕されたという。接見した御子柴に対し、郁美は容疑を否認。名を変え、過去を捨てた御子柴は、肉親とどう向き合うのか、そして母も殺人者なのか?
全ての男性にとって母親はアキレス腱である。好むと好まざる、生存死亡の別に拘わらず、どんな男にも無視できない存在だ。かつてその胎内で羊水に包まれていた記憶があるせいかもしれない。
そしてまた全ての弁護士にとって最初の敵は依頼人である。依頼人がひた隠しにしている事実を知った上でなければ十全な弁護ができないから、まず依頼人と対決しなければならないのだ。
最悪の弁護士・御子柴礼司の次なる依頼人を母親としたのは、そうした必然によるものだった。二重の意味で思うように操縦できない依頼人は、御子柴にとって最悪の相手でもある。
いつもいつも映像化困難なテーマを選んでいるが、今作のテーマもとびきりデンジャラスなものだ。殺人の系譜とも呼ぶべき禁じられた主題だが、仮に禁忌であろうが、触れなければ語れない物語は確実に存在するのだ。
とは言え、この小説はエンターテインメントである。小難しい問題はひとまず脇に置いて、ページを開いた方々には眠れない夜をお約束しよう。
悪徳は輪舞曲(ロンド)のように旋律(戦慄)を繰り返す──。
中山七里(なかやま・しちり)
1961年、岐阜県生まれ。2010年に『さよならドビュッシー』で第8回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、デビュー。2011年刊行の『贖罪の奏鳴曲(ソナタ)』が各誌紙で話題となり、ドラマ化もされた。近著に『ワルツを踊ろう』『逃亡刑事』『護られなかった者たちへ』などがある。