『祝葬』
著者:久坂部 羊
定価:本体1,600円(税別)
「もし、君が僕の葬式に来てくれるようなことになったら、そのときは僕を祝福してくれ」
自分の死を暗示するような謎の言葉を遺し、37歳の若さで死んだ医師・土岐佑介。
代々信州を地盤とする医師家系に生まれた佑介は、生前に不思議なことを語っていた。医師である自分たち一族には「早死にの呪い」がかけられているという――。
簡単に死ねなくなる時代につきつけられる、私たちの物語。
連作集『祝葬』の第一話「祝葬」は、私がはじめて雑誌に発表した短編です。「一族」というテーマで依頼されたとき、ふと早死にする医者の一族の話を思いつきました。
医者は医療の専門家だから、長生きするのが当然と思っている人も多いと思いますが、実際はそうではなく、職業別平均寿命を見ても医者は決して長命ではありません。私の医学部の同級生も、すでに7人が鬼籍に入っています(がんが5人、自殺が2人)。
「祝葬」は当初、単発の作品だったので、主人公の曾祖父、祖父、父等の早死にの経緯は適当に書きました。その後、担当編集者が会社を離れ、作品もそのままになっていましたが、数年後、編集者がブーメランのようにもどってきたので、連作開始となったわけです。
書きはじめてみると、適当に書いた死にそれぞれの物語が浮かび上がり、まるでほんとうにこんな一族がいたかのような錯覚に襲われました。
人は長生きを求めますが、度が過ぎれば決して望ましいとは言えません。短命を忌避する人も多いですが、これもうまくやれば必ずしも悪くはありません。
そんな皮肉で、忌まわしくて、苦甘い連作が、この『祝葬』です。不穏だけれど、医療のほんとうの裏面を覗いてみたい方には、きっと愉しんでいただけると思います。
久坂部羊(くさかべ・よう) 1955年大阪府生まれ。小説家・医師。大阪大学医学部卒業。大阪大学医学部附属病院にて外科および麻酔科を研修。その後、大阪府立成人病センターで麻酔科、神戸掖済会病院で一般外科、在外公館で医務官として勤務。同人誌「VIKING」での活動を経て、『廃用身』(幻冬舎)で2003年に作家デビュー。近著に『院長選挙』(幻冬舎)、『カネと共に去りぬ』(新潮社)がある。
ドラマティックな死生観に圧倒される。
読後この先どんな医療にすがるのが正解なのか、混乱してしまう。死ねない時代にどう生き切るのか。大きな課題を残す一冊です。
今井書店 グループセンター店 鳥橋早苗さん
長寿は、お目出たくないし、幸福ではない!?
確かに既に高齢化社会が進み、逆ピラミッド型の人口比率が問題になって来てはいるのだが……。土岐一族にまつわる五つの短編連作を読み「死」について、沈思黙考。
人それぞれ思いは千差万別であろうが、最後の一文が深く心に残った。
死者は語らず、思いを伝える術はない。
大垣書店 高槻店 井上哲也さん
今41歳。ぞっとするとしか言いようのない感覚を覚えました。
ユートピアともディストピアとも言えない、そんな未来にリアリティを感じました。
作者にははっきりと未来が視えているかのような印象でした。
ブックファースト なんばウォーク店 小谷圭亮さん
生き方は何度も変えることができても、死に方は変えることができない、ということ。
医師だからこそ伝わる久坂部先生のリアリティと最後の一行が重く心に刺さりました。
水嶋書房 くずはモール店 和田章子さん
早死にの呪いがかけられているという医師家系に生まれた友人の医師の葬式に疑問をもつ。
人生100年時代、日本の未来は恐ろしすぎる。
『祝葬』というタイトルに興味をもたれたらぜひお読み下さい。現役の医師だから書けた気がする。
明林堂書店 日出店 冨田昭三さん
なるべくなら長く生きたい、そして家族にもなるべく長く生きていてもらいたい。みなさんそうお思いですよね? 私もそうです!
しかし本作は、医療の光と影を描き続けてきた、医師でもある著者が、長寿信仰の私たちにつきつける問題作です。
「自分の葬式を祝福してほしい」という言葉を遺して早世した医師、冥界からの殺人者によって謎の死を遂げた医師、カルテに残された「ミンナ死ヌノダ」という言葉に翻弄されて死んだ医師、行きすぎた信念と医療に殺された医師――と、作中に登場する医師たちは、早死にの呪いがかけられているかのように、なぜか短命なのです。日本人の平均寿命が、女性87.14歳、男性80.98歳と、過去最高を更新し続ける現実とは対照的に……。
長生きは善なのか――。死生観が揺さぶられる恐怖体験を是非!