新本格30周年にあたって、その《新本格》の生みの親、元講談社文芸第三の編集者宇山日出臣さん(本名秀雄。日出臣は島田荘司さんが姓名判断により命名)について、記しておくべきだと思い筆を執ることにする。
宇山さんは1944年生まれの京都市出身、同志社大学を卒業後、父親の意向で三井物産に入社する。しかし、生来の読書好き(ミステリ、SF)により、2年で商社を退社、講談社に入社することになる。講談社では当初中井英夫の『虚無への供物』を文庫化することやショート・ショート・コンテスト発案等に奔走したが、「(既成のものの再刊でなく)一から本造りのできるノベルス」の編集へと転ずることになる。
そこから編集者宇山日出臣の快進撃が始まる。島田荘司さんの『斜め屋敷の犯罪』の編集を経て、綾辻行人さんら、京大推理研出身の多くの若手作家の起用、また他社出身の有栖川有栖や私をも取り込んで《新本格》なる名称を発案、その後の日本ミステリのメイン・ストリームを築いていくことになる。
綾辻行人「仮題・ぬえの密室」
歌野晶午「天才少年の見た夢は」
法月綸太郎「あべこべの遺書」
有栖川有栖「船長が死んだ夜」
我孫子武丸「プロジェクト:シャーロック」
山口雅也「毒饅頭怖い 推理の一問題」
麻耶雄嵩「水曜日と金曜日が嫌い ――大鏡家殺人事件――」
『7人の名探偵 新本格30周年記念アンソロジー』
著者:綾辻行人 歌野晶午 法月綸太郎 有栖川有栖
我孫子武丸 山口雅也 麻耶雄嵩
定価:本体1,000円(税別)
描き上がった新本格30周年アイコン(シルエットの綾辻さん)を編集さんに渡すときにこう言いました。「題材が綾辻さんだったから可能でした。ファンの間でイメージも固まっていますからね。他の人なら絶対に無理でした」
しばらくして別の編集さんから、30周年記念アンソロジーの装画依頼がありました。新本格マニアとして願ったりかなったりの仕事です。「何を描きましょうか?」と問おうとしたら「デザイナーの坂野さんのアイデアなんですが」と、一枚の紙を渡されました。
そこには僕が描いた30周年アイコンの綾辻さんが7つ並び、そのそれぞれに、歌野晶午、法月綸太郎……と名前が並んでいました。
そのアイデアを口で説明されたら、即座に「無理です」と答えたことでしょう。「あれは綾辻さんだから可能だったんです」と。
でも目の前のアイデアラフが僕にそれを言わせませんでした。「無理だ」の前に「おもろいやん!」と思ってしまったからです。これを形にしてみたい!
困難が待っていると思いましたが、いざ取りかかると、あれよあれよと進んでいきました。どの作家さんもキャラが立っていました。売れっ子作家なんだから当り前のことですが、私生活の場でもお会いすることが多いので、すっかりそれを忘れていたのです。
全員違ったポーズにしようと考えていましたが、勝手にペンが走って決めてくれます。それぞれに記号的なアイテムを加えましたが、数人に当てはまる「猫」と「タバコ」を振り分けたら、あとはすんなり進みました。麻耶くんの〝特異さ″をどうしようかと考えていたら、ベストのタイミングで彼が蛇を巻いている画像が流れてきました(神もこの仕事に協力してくれていると感じた瞬間です)。
今は、困難をなし遂げた感動に包まれています。そして別の野望がむくむくと湧き上がってきています。
こうなったら、ミステリ作家全員のこれを描いてみたい! と。
(追記)綾辻さんには「僕は司会をしているの?」と訊かれてしまいました。いいえ、歌っているところです。
喜国雅彦(きくに・まさひこ)
漫画家、雑文家、装画家、プチ音楽家、本棚探偵。
ミステリとヘヴィ・メタルと古書とニーソが好き。
代表作に『日本一の男の魂』『月光の囁き』など。1997年に第4回みうらじゅん賞、2015年に『本棚探偵最後の挨拶』で第68回日本推理作家協会賞、2017年に『本格力』で第17回本格ミステリ大賞受賞。
綾辻行人さんの『十角館の殺人』が誕生して30年。新本格ミステリにとって記念すべき年だからこそ出来たアンソロジーです。新本格第一世代と呼ばれる作家の皆さんが渾身の力で書ききった新作7編。はっきり言います、すべてがすべて傑作! ミステリ好きならば、必ず読んで欲しい1冊です!
あの衝撃から30年――。『十角館の殺人』のはじめての限定愛蔵版が、著者デビュー30周年のメモリアルイヤーに刊行となります! 豪華函入り、そして豪華執筆陣によるエッセイ「私の『十角館』」を収録したスペシャルブックレット付き!! 33名の作家さんそれぞれの「『十角館の殺人』との出会いのエピソード」には、歴史と感動がつまっています。今しか手に入らない限定版ですので、このチャンスを絶対に絶対に逃さないでください。きっときっと、後悔します。
講談社ノベルス
『7人の名探偵』
講談社タイガ
『謎の館へようこそ 白』
『謎の館へようこそ 黒』
上記の新本格30周年記念アンソロジー3作品に、「特製しおり」がついています。
しおりにあるのは、『7人の名探偵』カバーに使用されたイラストと各作家のデビュー作を彩る名文の数々!
なんと、その名文をセレクトしたのは新本格ミステリ作家を多く輩出してきた京都大学推理小説研究会(略称「京大ミステリ研」)の現役メンバー!
新本格30周年だからこそ誕生した、ファンにオススメの特製しおりです。
注意事項
*キャンペーン期間 2017年12月末日まで
*キャンペーン期間内においても、本しおりはなくなり次第終了とさせていただきます。
ご了承ください。
*しおりのデザインは選べません。