大学まで理系だったこともあり、日本史は中学校で習ったのが最後です。時代劇のファンというわけでも、歴史小説の愛読者でもない。そんな私がなぜ戦国時代を舞台にしたミステリを書こうと思ったのか。それは、血で血を洗う決戦が繰り広げられ、政略結婚や下剋上が当たり前であった時代だからこそ成り立つ逆説と奇想を描きたいと考えたからです。
舞台は九州の戦国大名である鷹生龍政の居城、紅城。白壁を辰砂(しんしゃ)で朱に染めたこの城で4つの摩訶不思議な事件が勃発します。
第1話『妻妾の策略』では、城主鷹生龍政の正室と三人の側室の間での確執が凄惨な事件を引き起こします。正室の首なし死体が発見された直後に、ひとりの側室が櫓から落下して命を落とします。正室を殺めた側室が責任を取って身を投げたかのような状況ですが、城主の子を宿していた側室には自害の理由がありません。異常な動機を際立たせようと練り上げた一編です。
第2話『暴君の毒死』は城主の弟の毒殺事件を扱っています。徳利に毒を忍ばせる機会のあった複数の容疑者をとくと調べてみると、実際には誰にも犯行が不可能だったことが明らかになります。真犯人はいかにして毒殺を成功させたのか。意外な真犯人と意外すぎる犯行方法に腐心しました。
第3話『一族の非業』には、次々と殺戮を繰り返す悪魔の矢が登場します。城主の父親と嫡男が立て続けに射殺されます。一見、単純そうな事件の奥に潜む驚くべき真実とは? 幻想色と不条理感を滲ませた一編になったのではないかと考えています。
第4話『天守の密室』では、ついに城主が狙われます。難攻不落の天守閣の最上階に立てこもっていた城主を誰が、どのようにして殺害できるのか? 唖然とするほどの奇想を爆発させてみました。
慣れない時代背景に執筆にはかなり苦労を強いられましたが、果たして「戦国本格ミステリ」という著者の狙いがうまく作品として着地しているでしょうか。読者の方、おひとりおひとりの目で確かめていただければ幸いです。