『落語魅捨理全集 坊主の愉しみ』
著者:山口雅也
定価:本体1,800円(税別)
五年ぶりの新刊であります。2012年に『謎の謎その他の謎』を上梓した翌年、私は重病に罹り、意識不明に陥り救急搬送──その後も約一年半ほどは、ほぼ寝たきりの闘病生活が続いた。原稿を書くどころか、このままでいけば、死ぬか自殺か廃人という究極の選択を迫られていた。ところが、その後、奇跡的に病気から完全回復、健康体を取り戻してしまった。そんなわけで。とにかく、この先、あと何年かは作家生活を続けることにした。そう決心した時点で思ったことは──
第一に、どうせ作家復帰するのなら、今まで自分が書いてこなかったようなものを書いてみたい。第二に、そうであるなら、自分ひとりのみならず、ミステリ史的にも誰も書いてこなかったような新しい地平を切り拓いてみたいということ。
第一の願望は「時代小説」に挑戦というかたちで成就した。『日本殺人事件』を書いたころから時代小説を書いてみたいという気持ちはあったのだが、その後『狩場最悪の航海記』での部分的実現を経て、今度は、まるまる一冊時代考証にも意を用いて書いた。
第二の願望は落語とミステリの完全融合というかたちで実現した。これまでに落語を題材にしたミステリは書かれているが、落語の特性をミステリに取り込んだものはなかったのではないかと愚考した。その結果は──自分の代表作の一つぐらいにはなっているかと。
山口雅也(やまぐち・まさや)
1989年『生ける屍の死』でデビュー。
1995年『日本殺人事件』で第48回日本推理作家協会賞を受賞。
2002年に発表された『奇偶』は、「偶然」という概念を型破りともいえる視点で扱い、ミステリの新たな到達点を示した。
他著書に『キッド・ピストルズの冒瀆』ほかのキッド・ピストルズシリーズ、『垂里冴子のお見合いと推理』ほかの垂里冴子シリーズ、『ミステリーズ』ほかのMシリーズなどがある。
『ミステリー映画を観よう』など、評論も多くものしている。
『日本殺人事件』で第48回日本推理作家協会賞を受賞した山口雅也さんの五年ぶりとなる新作短篇集です。愉快で賑やかで奇妙で自由。著者の傑作『生ける屍の死』や『奇偶』とは、まったく異なるアプローチで描く意欲作。おたのしみください。